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和田行男の「婆さんとともに」

まだ思考途上

 僕にできることは何か。
 先々週のブログに書いた、ピック病を告知された方(Aさん)のことをずっと考えていますが、まだ途上です。でもたくさんの方からコメントを寄せていただいたので、自分なりに思うことを書いてみました。

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 僕は何よりも「お金」のことを気にかけました。まずは、Aさんとその家族が生きていくために欠かせないお金を得ることを継続できるのかどうかということです。
 お金を得るには二つの道しかありません。
 自力か他力かですが、本人の意思とは無関係に、まずは自力の可能性について考えていきます。
 認知症になったいま、今はまだ認知症であることを雇用主に知らせないまま仕事を継続できるとしても、やがては認知症による仕事への影響は避けられないでしょう。
 このまま働き続けることを前提にするとしたら、雇用主のみならず「企業内認知症サポーター」が必要になりますが、そのためには「告知」が必要です。
 働き盛りの人が認知症になるということは、わが身に認知症を告知され、まわりの人にわが身の認知症を告知することが必要になるわけですから、倍々の勢いで辛さが増すことでしょう。でも、自力生活の継続には欠かせない道です。
 こんな時にこそ国家権力が威力を発揮すれば心強いことでしょうが、それはどうなっているかということがまずもって気になります。
 時間がなくて調べられていないのですが、認知症は障害者雇用の義務づけの枠には入っていないでしょうし、雇用主が、認知症を理由に解雇(解雇に追い込む方法をとることも含め)できない法的な防波堤があるかどうか…。
 認知症になっても働き続けて自力生活に挑むことを応援する仕組みや機運づくりに税金が使われず、税金で生かしていく他力の道しかないとしたら、国の制度にこそ「自立支援」の理念を貫くべきです。
 話は逸れますが、ある委員会で、あるデイサービスで取り組んでいる就労支援を例に出して、「あれはエセ就労で、労働に対する対価がないのだから就労支援とはいえない。そのジレンマを感じているのは、そのデイサービスの経営者であり従業者であり、利用者であり家族。そのジレンマを感じさせているのが自立支援を謳う国の制度だとしたら、おかしな話ではないか」と。
 つまり、通所介護事業者が働き口を見つけてきて利用者が働いても、利用者に賃金は入らないでしょう(誤解しないでね。事業者にも入らないですからね)。
 せいぜい先方からお礼を言われて「いいことをした」くらいな話になってしまっていることでしょうし、子どもだましのような対価の形を渡して「よかった」を演出することくらいでしょう。
 僕はその委員会で「賃金を得るためにデイサービスが機能することを制度として認めるべきだ」と話しました。
 利用者はデイサービスから「働き口」「働く場までの送迎」「企業への啓もう」「労働への見守りや付添支援」を提供してもらい、利用者が働きによって得た賃金の中から1割負担分を支払えば、デイサービスにかかる社会的コスト(9割分)は変わらないのに、利用者が新たに稼いだお金でデイサービスを成立させるためのコスト負担(1割負担)をすることができ、なおかつ利用者にとってデイサービスに行くことによって生きていくために欠かせない「お金」を新たに得ることができるということです。
 勤めている家族にとっても、デイサービスの利用コストや婆さんの生活を支えるコスト負担を軽減させることができ、自分のために使えるお金が増えます。
 これはデイサービスに限らずで、特養やグループホームに住む人の中にだって、足が不自由で動けなくても、内職できる能力のある人はたくさんいます。
 しかもそういったお金が社会に回り、再び税金として国や都道府県市町村に入っていくわけですから、認知症になってもなお「お金の循環」を継続させることができるということです。
 いつまでも要介護者を「保護・他力生活者」にとどめるのではなく、まさに自力生活を支援する老人福祉・介護保険にするべきで、人のため・社会のために良かれと思って人が生み出した仕組みが、社会的損失を産み出しては元も子もありません。
 「有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように」
 何度も僕の話の中に出る法律の文言ですが、この国で57歳といえばまだ、自立した日常生活と「労働=賃金を得る」はセットで、就労支援を外すのは法と法の精神を説く行政にこそ、コンプライアンスがなさすぎるということになってしまいかねません。
 介護予防にまつわる税金を使った様々な取り組みもそうですが、「消費」しかない仕組みでは、お金がいくらあっても足りないでしょう。
 つまり、Aさんのことを考えていけばいくほど、この国が掲げる「健康で文化的な生活」「自立した日常生活」を応援したくても、この国は本気になって応援しようとしていないことに気づくばかりで、応援を業とする僕にとっては「手の打ちようがない」ということになり、ただAさんにとって「耳を傾けてくれただけ」ということにやもしれません。

 そんなこんな話をAさんにしながら、もうひとつAさんに確認します。
 それは、認知症を告知したことで、雇用主が認知症を理由に解雇もしくは解雇を余儀なくさせる方法で解雇に追い込むことがあるとしたら、その是非についてAさんも家族も社会的に問いかける行動がとれるかどうか、AさんやAさんの家族がこれからの人たちのために行動できるかどうかです。
 行動できるとしたら、その行動を共にする・応援する仲間を集めることに自分がどれだけ応援できるか、もっと言えば、僕自身が共に行動する主体になるかどうかの自問自答です。
 そしてもうひとこと、「認知症になっても、堂々と風を切って生きていける社会にしていくために、婆さんズ解放運動を一緒にやりませんか」「気づいたときには、行動したくてもできない状態になるかもしれませんからね」って囁きます(これはすでに会った時にささやきましたがね)。
 まずは入口の話としてそんな話をします。


コメント


和田さんへ
 どの位お手伝いできるか判りませんが、「認知症になっても、堂々と風を切って生きていける社会にしていくために、婆さんズ解放運動を一緒にやりませんか」に参加して、一緒に呼びかけたいです。やりましょう・・一緒に呼びかけたいです。
 確かに、内職のようなもの・・出来る方、います。それが、仕事に出来たら・・・。障がい者ホームでも、パンや指人形作ったりしています。やってやれないことないです・・。
 今回の和田さんのブログを読み・・私は、その人の立場になって考えられていないこと・・気づかされました・・・。お金が入ってこないことが・・一番重要なことですね・・・。その人の身に全然なれていません・・・。


投稿者: 寺内 美枝子 | 2009年10月20日 21:34

 私は先々週からコメントしています。
 和田さんの出した答えを何度も読み返しています。
 人は労働し、生活しています。そこを無くしてはいけないと感じます。私がもし今、認知症になったら…やはり最後まで働きたい。
 誰にでも起こりうる病気なので、認知症になっても堂々と生きていける社会を作っておかないといけないと感じます!
 一部だけでなく全国に広めていく事が大事だと思います。
 日々、認知症の方と関わり、本人の持つ可能性や人間の能力に驚かされています。


投稿者: 畑 | 2009年10月21日 17:09

 難しいですね。
 認知症、ピック病と言っても、本人の年齢や取り巻く環境によって思いはそれぞれ異なるのでしょうし、やはり、どんな病気を抱えていながらも、本人がどうしたい?、に応えられるような世の中が一番理想なのでしょうね。
 制度に頼ると、個々の想いにまで目が行き届かず、一律に「こうあるべき」的な対処で、その人を制度に当てはめてしまう、どうやったら当てはまるか、なんて考えてしまうことになるように思います。
 それよりも、国民が障害や加齢、病気について身近に感じて感心を抱くような仕掛けをして、企業がそのことを身近な問題として捉え、誰にでも起こりえる身近な事なんだという認識を持つこと、受け入れる側として間口を広げる構想を考える企業が増えることを願います。
 福祉を超えて一般の企業がそのことに感心を持ち、扉を開けてくれるといいなぁと思います。
 もちろん、職員教育が必要ですし、現在も補助金や給付もありますが、実際の受け入れに関しては一般的ではなく、積極的ではいように思います。
 制度上「障害」や「要介護」と認められた方たちに対しての柔軟な支援ができ、受け入れてくれる器があることで、個々を尊重でき、介護保険法にある「自立支援」の実現が叶うのではないかと思います。
 逆に就労や役割だけがその人ではない、とも思います。
 本人がどうしたいか、かかわる側でしっかりとアセスメントでき、マネジメントできる人材を多く育てることも課題と思います。
 自分も出来ていないことばかりですが、思い描いてみました。


投稿者: sakura | 2009年10月21日 23:47

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち97年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。東京都地域密着型サービス事業者連絡協議会代表としても活躍。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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