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和田行男の「婆さんとともに」

選居権

 先日の都議選をピークに、このところ選挙報道が熱い。
 もちろん今年は衆議院議員選挙が実施される年であり、選挙に注目が集まるのも無理からぬこと。しかも国民の多数が「何とか現状を変えてほしい」と切に願わざるを得ない状況下で、政権交代という日本人にとってはほとんど無に等しい経験を迎えるかもしれないとなると、関心が高まるのは必然か。
 どこにいってもこの話が出てくるのは、どこが政権を担うかで自分を取り巻く状況が好転するかしないかということが注目されているからだろう。僕もこの国の民のひとりとして、社会を構成する主体者として大いに注目している一人である。

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 いろいろと注目すべき点はあるが、僕は各政党が「住まい」についてどう考えているか、何をしようとしているか、とても興味をもっている。
 「住まい」とは住居ではなく、住宅政策ではない。住まいとは、学者の話によると、住居と生活が一体となって初めて住まいと言えるものらしいが、僕にはそれがどうかこうか検証できる知識はない。ただ僕は「住まい=住居+生活」が大切だということを、自分と自分の周りの人々が生きている姿から感覚的に感じ考えて、婆さんがグループホームで住まえるように実践してきた。
 24時間入居型の高齢者施設を考えるとよくわかるが、現在の高齢者施設施策で住居は(辛うじて)保障していたとしても、生活を保障するというところには行きつけていない。生活はその主体が本人であるが、入居者一人ひとりの生活を保障できるほどの支援量(人員配置や医療体制など)はなく、運営基準や指導要綱を見聞きしても保護する程度の仕組みでしかない。
 具体的に例をあげれば、介護保険法の目的には「有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように…」と謳っているが、片方で「食事の提供」を基準として定めているため、提供側が事前に計画したものを「食べるか・食べないか」の選択肢ししか入居者にはなく、その日その場に応じて自分の意思を食べることに反映できない・反映されにくい仕組みになっていることなどは典型的だ。
 辛うじてグループホーム(認知症対応型共同生活介護)は「住まい」を政策化したものと考えるが、これとて人員配置基準やその他の支援体制を見ると、24時間365日の「生活」「共同生活」を応援するには無理が多すぎる状況だ。しかも認知症がなければ利用できない。
 また、実感としては要支援から要介護へと移行しないための「住まい」への応援策が乏しいため「住まいはあっても生活支援がない住まい崩壊」の状況を生み、そのことで施設への移行を早める結果を生んでいるのではないかと思っている。
 政治家が自宅での生活(住まい)を続けていくことを応援するための施策を打ち出さず(打ち出せず)、特別養護老人ホームなど24時間型の施設が不足していることだけを掲げて施設の充実を訴えているとしたら「三分の二手・四分の三手落ち」である。
 国民が安心して住まえる「住まいへの施策」が大事であって、国民が願っている住居場所は圧倒的に自宅であり、そのことを応援する仕組みを描き政策化していけるかどうかだ。
 もうひとつ言わせてもらえば、国民に対して理想を語るだけでなく、現実を肯定するだけでなく、「あなたが願う自宅での生活を応援するのは限界がある。だから居を移してほしい。居を移したところでならば、生活への支援はここまでなら可能にできるから。それには国民も覚悟をもつことがもうちょっと必要」などと、現実を直視・現状を改革する施策を打ちあげてもらいたいものである。
 なぜなら、誰もがどんな状態になっても願う「住まい(自分の生きる姿=多くは自宅でこれまでのように)」を保障するには、コスト的にも人手的にも限度があるからだ。
 どこで住むか(住居)への選択肢があって、どこで住もうが生活への応援がある。つまり国民に、何らかのハンディを負ってもどこで住むかを決めることができる「住居自決権」を保障しつつも、そのことには限度があること(住居他決義務)を明らかにし、どこに住んでも「生活支援受給権」を保障するがそれも限度があることを明らかにする(生活支援不完全義務)という施策が大事だということだ。
 いずれにしてもこの国の未来を築くのはこの国の民であり、その民のひとりである僕らに未来はかかっているということであって、どんな結末になろうともその責からは逃れられない。
 日本の国の制度によって苦しんでいる高齢者たちがいるとしたら、その高齢者たちが今のこの国を築いてきたということであり、無関心や目の前の利得だけを追いかけてきた結果として数百兆円もの借金大国になり、そのために苦しんでいるということを僕らは決して忘れてはならないのではないか。同時に政策に失敗があったとしたら、失敗を認めることもなく誤ることもなくほっかむりしている奴らがいることへの怒りをもち・それを忘れてはならない。
 実は高齢者に限らず、すでに53歳の僕は、32年前からこの国の未来に向かって「一票」を宝と思ってきたかと問われれば「?」であり、今のこの国の有り様に僕も責任をもっているということなのだ。
 しっかり考えて行動しよう。もう間もなく衆議院議員選挙がおとずれる。

追伸
 サイモン&ガーファンクル(S&G)名古屋公演を聞きに行った。
 前に来日した時も一緒に聞きに行った友人「やなぎ君」が手配してくれた席はアリーナ。前から11番目と抜群の席で、しかもステージに向かって左側だったので、ポールサイモン(ギタリストで、客席に向かって左側で演奏するのが常)の演奏姿がばっちり見えるところだった。
 まだ東京、大阪、札幌と続くので、これから行く人もいるだろうからコンサートのことは何も申すまいが、自分のことだけで言えば、卑屈だった16歳高校一年生の頃がよみがえり、涙なしでは聞けなかった。
 自分の家に帰りたくないため、やなぎ君家に居候状態だった。やなぎ君のお母ちゃんが毎日のようにいる、もはや住み込んでいる僕にご飯をつくってくれた。
 やなぎ君はギターが弾けるように必死で練習をし、ラジオ番組に出してもらえたり、全国フォークソングコンテストで優勝するほどにまで上達。僕はといえば、ギター演奏に必死になれなくて(何に対しても中途半端)傍らで聞いているだけ。引っ込み思案だったやなぎ君の背中を押して、あちこちに出て歌うように仕向けるぐらいのことしかできなかった。
 何度も何度も明け方まで繰り返し聞いた「ミセスロビンソン」「水曜日午前三時」「早くお家に帰りたい」「キャシーの歌」「アメリカ」など名曲の数々をやなぎ君とは38年前から一緒に聞いていたことになる。まさにS&Gの歌にある旧友だ。そんな時代が駆け抜けた2時間だった。
 S&G67歳の二人は12歳の頃からの友人。すでに50年以上も一緒に歌ってきたということになる。ソロでも歌ってきたが、やはり二人は一緒がいい!と改めて思った。
 僕も、婆さんのことを語っているとき(婆さんとのデュオ)が一番きらきらしていると言われるようになれるかなぁ。まだ20年、道半ばである。

ご案内
■認知症講座 「夢の架け橋」
□第一部「レビー小体型認知症を知っていますか?」
 ナビゲーター 
  橋 幸夫 (宇宙人からの贈り物 著者)
  宮田真由美(レビー小体型認知症家族を支える会会長)
 講演者
  小阪憲司 (横浜市立大学名誉教授 精神科医)
  岩田 誠 (東京女子医科大学名誉教授 脳神経内科医)
  羽田野政治(横浜福祉研究所認知症高齢者研究室主幹)
  グスタフ・ストランデル(元スウェーデン福祉研究所主幹)
 特別ゲスト
  渡邉美樹 (ワタミ株式会社代表取締役会長)
□第二部「母を恋うる歌」
  橋 幸男(歌手)
○主催 「レビー小体型認知症家族を支える会」
○開催
 神奈川県民ホール 9月9日18時開演
○今後の予定
 名古屋市公会堂 11月26日
 福岡市民会館  1月19日
○問い合わせ 「夢の架け橋」事務局
 03-5821-0369(平日10時~18時)
○チケット料金
 一般:5000円 会員:3000円
○チケット取扱い
 神奈川県民ホールチケットセンター
 音楽堂チケットセンター
 チケットぴあ
 ローソンチケット
 イープラス


コメント


 初めて投稿します。住まい=住居+生活の公式は本当に同感です。
 グループホームは、9人の小集団による集団生活ですが、それでもボス同士の争いがあったり、気の合う同士の笑いがあったり、(時にはいじめがあったり)本当に生臭いけれどおもしろい社会だなあと日々実感しています。


投稿者: よっちゃん | 2009年07月14日 07:52

 和田さん、皆さん、こんばんは。

 きっかけは、和田さんのこちらのブログです。何がきっかけかと問われれば…少し前の挑戦しているかどうかという内容です。
 どうして今…挑戦するように決めたのかは定かではありませんが、毎日、挑んでいます。
 色々な事を怖がる自分がいます。でも、それは捨てました。それよりも、前に進みたいです。対人関係は…このことで少し難しくなりました。でも、仲間を愛していこうと思っています。それは、とても大事な事なので、これからも続けます。
 今の世の中は、御爺さん、御婆さんが作りました。そして、そのしっぺ返しがきています。しかしながら、そう思っても何とかしたい自分がいます。
 政治を慎重に選んでこなかった御爺さん、御婆さん…そして、今の世の仕組みはそこからきていると思います。でも、だからって…我慢すれば良いのではないかとは思えないし納得もいきません。それなので、どうにかしたくて私たちは、このことに懸命になるのでしょう。


投稿者: 寺内 美枝子 | 2009年07月14日 21:28

 住まいの事、本当に今からどうしていけばいいのでしょうね。
 以前は自宅にこだわっていました。今も自宅ほど良い所はないとは思っています。
 ただ、10年ほどケアマネの仕事をさせていただいて感じたのは、人はその身体状況によって次第に住まう範囲が狭まって、必ずしも自宅でなくても、生活の自己決定権というか自分を認めてくれる環境があれば、適応しひどく落ち込まないで生活が出来ていくのではないかと。そのように感じていますが、私の感覚は鈍感か錯覚なのでしょうか?
 ただ悔しいのです。特養は200人待ちで待ちの人数がどんどん増えます。私たちには支援策がないということなのかと。。。。。。
 余談
 主人もサイモンとガーファンクルの名古屋講演聞きに行き、えらく興奮し感動し、青春を蘇らせていました。私は和田さんと同い年なのに、S&Gの事は全然知りません。
 ちなみに、橋幸夫さんは小学校低学年のとき大好きでした。夢の架け橋に和田さんは出演されないのですか?


投稿者: 八幡のoldsister | 2009年07月15日 12:14

 和田さんの発言「現実を直視・現状を改革する施策を打ちあげてもらいたい」に付け加えたい。
 そもそも「改革」を始めるには、直視すべき・改革すべき現実が知られないといけない。国民の意識が「施設やホームにお任せ」のままでは、何も始まらない。「自分の将来の居場所をどうするか」という意識で関わってくれる人を増やすことが必要だ。
 そのためには、今の高齢者施設やグループホームの限界を知らせなければならない。わかりやすく訴えるのは、そこで働く現場の人間の役割だ。
 「私たちはここまで支援できますが、これ以上はムリです」
 「施設やホームだけで生活は完結できません。皆さんも力を貸して下さい」
 率直なアピールを発信して、みんなに考えてもらうしかないと思う。それを避けて関係者が黙々と抱え込むやり方では、もう続かない。高齢者の介護問題だけでなく、産科・小児・救急医療など、みな同じだ。
 次回の選挙でどの政党に投票するか、という選択で片が付く問題ではない。このブログを見ている皆さんが、それぞれ問題を周囲に訴え、一緒に考えてくれる人を増やすことから、息長い取り組みを始めようじゃないか。


投稿者: あが | 2009年07月16日 20:41

〉そのためには、今の高齢者施設やグループホームの限界を知らせなければならない。
〉「私たちはここまで支援できますが、これ以上はムリです」

 あがさんの説に賛同します。  
 ただ…、同時に高齢者施設やグループホームで働く職員自身の思う『限界』のレベルが低過ぎるんじゃないの?と思ってしまうような所も多々あるのではないでしょうか…。
 入居者さん主体の自立支援に日々悩みバーンアウトする方もいれば、「そんなの無理です」「(業務が)忙しくてそんな時間ありません」と『出来ない理由』をあれこれ挙げて、自らの『限界』のレベルを低くしてしまっている(その方が楽でしょうが)方もいる。
 その『限界』の見極めって、職員の経験や想いによって変わるものではあって欲しくないです。


投稿者: toto | 2009年07月18日 23:55

このたび初めて投稿します。80歳代のお袋が今年の1月にグループホームに入りました。といいますのは、ひとり暮らしが5~6年続き、子どもたちが毎週実家に顔を出しますが、やはり高齢で外出をほとんどしなくなって、そのため会話が少なくなり、軽症の老人性うつ病にかかったことが理由のひとつです。掛かりつけの主治医の先生からも(1)一人暮らしが限界であること、(2)子どもの誰かと一緒に暮らすか、それが難しければどこか施設への入居を勧められていました。グループホームを見つけるまでの間、デイケアサービスに週2回の通所を行ないました。


投稿者: 大森の天文部 | 2009年07月20日 21:02

 今日の皆既日食…人生観が変わったと話されている方も多くいらっしゃるとか。
 私だけでなはいと思いますが、人生観を変えてくれたお年寄りに出会えた経験をお持ちのかたも多くいるのではと思います。
 あがさん・totoさんの言うように私たち現場の人間の役割ですよね。発信して仲間を増やしていく宿題がいっぱいです。
 取り組み方をみんなで考えていきたいし、意識を変えていく努力をしていかないと現実は変わっていかないですものね。
 土砂崩れで犠牲になった方々の冥福お祈りします。リスクマネジメントの取り組みも、我が事と捉えていく必要性を感じました。


投稿者: なんくる | 2009年07月22日 21:05

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち97年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。東京都地域密着型サービス事業者連絡協議会代表としても活躍。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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和田行男さんのブログ「婆さんとともに」をまとめた書籍が刊行されました。
タイトル:『認知症になる僕たちへ』
著者:和田行男
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発行:中央法規
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