震災時の介護の使命
去る10月20日、岩手県盛岡市にて、公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会岩手県支部主催によるセミナーの講師を務めました。当日は岩手県のほか、青森、宮城など近隣からも多くの受講生がいました。
セミナー終了後の懇親会で、沿岸地域の施設の方と話す機会がありました。昨年3月11日の震災で大きな被害を受け、ようやく復旧し、事業を再開したということです。
話を伺っていると、当たり前のことがいかに幸せか痛感しました。一瞬のうちに施設に大きな損害を与え、利用者、そして同僚の多くを失ったそうです。
3月11日までは、仕事が大変だ、給与が安い、休みが希望どおりではない、あのスタッフが嫌だ、この利用者は苦手だ、という気持ちがあったそうです。しかし、被災してから現在までいろいろと思い返してみると、そういった不満や満たされない条件はとても贅沢なことだったと感じたそうです。
結局、安心して働ける環境、意見や気持ちを衝突させることができる同僚、自分に課題を与えてくれる利用者という存在があるから悩みや思いが湧いてくる。そういった当たり前の存在がなくなることはとてもつらいといいます。悩めることがありがたいということだと。
震災から1年半が過ぎました。いまだに被災地では大きな問題が山積みです。大きな被害に遭わなかった私を含め、多くの人は震災時に感じたはずです。普通の生活がいかにありがたいかを。
しかし、たった1年半で、当時感じた気持ちが薄らいでいることがあるかもしれません。大きな被害に遭われた被災地の方に比べたら、現状の課題は幸せな証かもしれません。
日本は1000年に1度の地震の活動期といわれます。いつ、どこで大きな災害に遭遇するかわかりません。その時、東北の介護事業者が見せてくれた姿勢を学ぶ必要があるのではないでしょうか。震災時、事務的に利用者へのサービスを中断したり投げ出した介護事業者の話は聞きませんでした。それぞれ、介護の仕事の使命、役割をまっとうしたのです。
仮に、そうした責務をまっとうしない事業者があったら「介護事業者は何だ」と叩かれ、不人気で社会的評価の低い業界になっていたことでしょう。
介護や医療、福祉の仕事以外であれば、震災時には閉店することができます。自分の家族の安否も不明で、食料やガソリンが不足するなか、目の前の利用者に対して寄り添い業務をまっとうした姿勢を見て、万が一自分がそういった立場になった際に同じことができるように準備しておくことが必要だと強く感じました。
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