介護保険サービスは同じ土壌の上で

デイサービスの送迎は通常、自宅から事業所までの往復です。
　通常のサービス業であれば、今日は○○病院まで、集会所まで、友人の○さんの家までと柔軟に対応することでしょう。しかし、デイサービスは制度事業です。本人の希望をもとにサービス担当者会議、居宅サービス計画書、通所介護計画書等に基づき行うものです。
　制度どおりに行っていたら利用者の確保が難しくなるということは、保険制度のサービス提供としては公平性に欠けてしまうのではないかと感じます。特に他業種から参入した事業所では、そうした思いがあるようです。デイサービスの事業所では、一般乗用旅客自動車運送業の認可を受けている事業所は少ない現状です。
　多様化するニーズに応えることは必要ですが、あくまでもデイサービスは介護保険事業です。同じルール（法律）、同じフィールド（人員配置、運営基準等）でサービスの質を競い合うことがフェア（公平）でしょう。
　現状の制度では、利用者のニーズにすべて応えるのは無理です。私も、利用者の要望に応えられずもどかしい気持ちになることがあります。しかし、9割は保険給付で支給される事業なので、制度に従うのは当然です。
　異業種からも注目され、参入が多くなることは歓迎ですが、グレーゾーンと思われるサービスが増えるのは問題です。利用者のために、そうせざるを得ないと決断して行っているのであれば共感できますが、たとえ利用者様のためにという大義名分があっても、介護保険の給付で事業を行うのであれば、ルールは無視できず、法整備が定まっていない死角を突くサービス提供には反対です。
　また、介護に対する想いもなく、差別化で売上が上がるという理由だけで行っている場合もあります。

続きを読む

　元来デイサービスは、他の在宅サービスよりも参入しやすい環境がありました。また、異業種のサービスを変容させて介護サービスに落とし込みやすいこともあります。
　訪問介護であれば、サービス提供責任者の役割を把握したり、直行直帰のスタッフの業務把握と精神面の把握など、ある程度の経験がなければ行えません。
　反面、参入しやすいということは、良い側面もあります。介護業界に足りない部分を導入することで、利用者のサービスの選択の幅が広がります。
　たとえば前述の送迎先の問題です。行きたいところに送ってもらえれば、利用者にとって便利です。しかしそれが当たり前の状況になったとしたら、どうでしょう。その利用者が他のデイサービスを利用した際「送迎先は自宅だけです」と断られたとします。利用者はその事業所に対して不信感をもつでしょう。
　ルールや規則に縛られすぎると、利用者が満足するサービスの提供が難しくなる場合もありますが、ルールを守っている事業所の評判が悪くなり、ルールから少し逸脱している事業所の評判が高まる状況は「正直者が損をする」事態になりかねません。
　利用者に喜んでもらいたいという気持ちはどの事業所も同じはずです。本当に必要なニーズであれば、保険者と相談して行うのが業界のルールではないでしょうか。

　以前、訪問介護サービスで次のようなことがありました。生活援助（当時は複合型家事）では、草木の手入れや水やりは禁止です。しかし、独居の女性利用者から「高い場所にある鉢植えに水を上げてほしい」という要望がありました。行うことは簡単です。1分もかかりません。
　しかしヘルパーは、事情を説明し、水やりは行わずにサービスを終え、事業所に戻りました。
　すると、その利用者から「あのヘルパーには来てほしくない」という連絡があったのです。別のヘルパーが行っても、「（私と）合わない」という理由で変更の申し出がありました。
　三度ヘルパーが行き、草木の水やりの許可を事業所に得たうえで行うことになりました。これは事業所独自の判断ではなく、保険者、支援センターと相談のうえ、保険給付外でサービス終了後の１分間で行うようにしました。
　日常生活に必要な介助でないため、本来は草木の水やりはヘルパーはできません。しかし、そのお宅の水やりを行うことで、高い場所にある草木に水をやる際の危険を回避し、安全を守ること、何よりも利用者にとってその鉢植えは、亡くなったご主人と一緒に大切にしてきたものだったのです。
　利用者の生活背景や人生を尊重し大切にすることは、介護の重要な仕事です。担当者との話で「介護保険内で行うのは×だけど、もしヘルパーが１分間ぐらい融通を利かせてくれるのであれば、終了後にお願いしよう！」ということで決定しました。
　対人援助サービスはマニュアル化できません。四角四面の対応では不十分です。介護事業が注目されるのはよいことですが、同じルールで切磋琢磨したいと思います。