12年ぶりに
進路などで迷った時、自分のターニングポイントとなる時に出会いがあり、その道に進むということがあります。
私自身にも出会いがありました。
著書『福祉の仕事を人生に活かす』にも書きましたが、その中の一人が専門学校の先生です。名前は廣池利邦と言います。
学生時代、アメリカのデイサービスや老人ホームの研修に連れて行ってもらいました。アメリカのデイサービスでは利用者が卓球やポーカー等をしていました。卓球も珠が大きく、車椅子で出来るように高さも調整されています。介護が必要なデイサービスというより、卓球クラブのようでした。明るく楽しく接していただきました。
その先生との出会いの時に印象的だったことを紹介します(前掲著より)。
恰幅のいい男性が「こんにちは!」と大きな声で元気よく教室に入ってきて、
「若い皆さん、お揃いですね! お会いできて光栄です」
そう言うと、最前列に座っていた学生一人ひとりと握手して回ります。握手が終わると、教室を見渡し、真面目な顔で「さっそくですが、皆さん右手を上げて下さい!」と言います。突然のことで意味がわからず、場はざわついた雰囲気に。躊躇する人もいました。それでも皆、右手を上げました。
「皆さん、ありがとうございます」
少し間をおいて、次の質問です。
「皆さんは全員手を上げてくれました。しかし、上げない人がいたとしたら、それはなぜだと思いますか?」
それに対して、「上げたくないから」「わかりません」「聞いてなかった」など様々な意見が出ました。
私はこう答えました。「聞こえなかったのだと思います」
全員に質問が終わると、「どれも正解です」と先生。さらに説明を続けます。
「福祉(介護)に答えはありません。右手を上げなかった人は、耳が不自由だったのかもしれません。日本人ではなくて言葉が伝わらなかったのかもしれません。右手を失ってしまっている人なのかもしれません。ですから、固定概念をもってはいけないのです。答えを求めてはいけないのです。相手の状況を見ながら対応を考える。そこに福祉(介護)の面白さがあります。大変だと思いますか?」
「そうだよ。楽しいんだよ! その答え、私は好きだね!」
説明会終了後、その先生から声をかけられました。
この学校に入学することに決めました。先生の影響がとても大きかったのです。
その後、先生からはその時の意味を伺う機会がありました。先生も覚えていてくれました。
「大変だと思うと、何でも大変でしょう。それを楽しいと捉えれば楽しくなる。そういう考え方は素晴らしいと思ったんだ」
私は、この説明会で得た新しい概念を頭の中で整理するのに数日とかかりませんでした。
「この仕事は、究極に相手のことを考えなくてはいけないんだ」
マニュアルはない。難しいこともあるだろう。
しかし、それらを克服していけば、人間的に成長できる。
何よりも自分の行動で喜んでくれる人がいて「ありがとう」という言葉がもらえる。それでお金がもらえる。こんないい仕事はない! やるぞ! と決意しました。
出会いが人生に大きく影響するという事を感じました。
廣池 利邦先生とは…
群馬社会福祉大学、日本福祉教育専門学校等で教鞭を取る一方、NPO法人アクティビティ・サービス協議会理事長、社団法人東京都障害者スポーツ協会ボランティア部会長、静岡県、千葉県、大分県、高知県、岩手県等社会福祉協議会、公的機関などの研修講師。デイサービスセンター、グループホーム等職員研修講師。
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