「患者紹介ビジネス」という闇
先日の朝日新聞(8月25日付)の一面に、「患者紹介ビジネス横行」という記事が掲載されました。読まれた方も多いのではないでしょうか? でも患者って、どうやって紹介するのでしょうか?
がんや難病患者などの「友の会」から紹介してもらうの?
一般的にはそう思われがちでしょう。しかし、実は、かなり手が込んだやり口でした。ケアマネジャーの皆さんにとっては、「あるある」と連想される方も多いかもしれません。
うたい文句は上手ですが、背景には、診療所を開設しても、患者が思うように集まらないという事情があります。
そして彼らは、訪問診療が外来診療より、診療報酬が高いことに目をつけたわけです。
では、その患者さんはいずこにいるのでしょうか?
中山間地や都市部に点在する高齢者宅を、一軒一軒紹介するという手間ヒマかかるものなのでしょうか?
さにあらん、ことは実に簡単です。
サービス付き高齢者向け住宅(通称:サ高住)や、住宅型有料老人ホームなどの高齢者施設に暮らす要介護高齢者(つまり患者ですね)を「十把ひとからげ」で紹介するので、訪問診療をしてくれというわけです。
つまり、高齢者施設で暮らす患者をまとめて紹介する見返りに、「診療報酬の一部」(記事では2割)というバックマージン(記事ではコンサルタント料)を、紹介業者が受け取るという仕組みです。
患者1人あたりの診療報酬が「月約6万円」ですから、1人およそ1万2千円になります。
そして、その“ビジネス”の狙い撃ちに合っているのが、「在宅医療支援診療所」ということです。インターネットで調べて営業しまくっているようですね。
「近頃、突然、患者さんが姿を消します。いなくなるという感覚なんです。その多くが高齢者施設に入ってしまったのですが、私が往診可能な距離なのに、入居してしまうと、医療は提携する診療所や病院が行うことになるんです」
これは、神奈川県の某市で研修した際に、ある医師から直接聞かされた話です。
提携先は、隣の市の医療機関。つまり医師会に配慮してのことらしいのですが、「近頃は医師会にも入らない医師も増えているのでどうにもあきまへん」(滋賀県O市の医師)というのも実態。医師会の力も及ばない現状があるようです。
これは、介護保険でも同じことが起こっていますね。
サ高住などの入居にあたり、ケアマネジャーも通所介護も訪問介護も、すべて同一建物の事業所に強制的に変更をさせられる実態が見受けられます。
医療も介護も「フリーアクセス」が原則なのに、いつのまにやら「囲い込み」のビジネスモデルが、定着した感があります。
たしかに同一事業所の集中減算、同一建物内の報酬減額などの規定はありますが、これも解釈次第では、「ザル」のように抜け道だらけです。
さらに問題なのは、過剰診療や手抜き診療(例:血圧と血糖値を測るだけ、問診・投薬だけ)が存在していることです。これは介護サービスでも同じです。
「在宅で暮らしていた時には、限度額の3~4割程度しか介護サービスを使っていなかったのに、サ高住に入居すると10割利用が当たり前になるのはどうしてでしょうか?」
私は研修会などの場で、あえてこのような問いかけをします。
そして、大きくうなずく人のなかには、必ず、サ高住併設の居宅介護支援事業所のケアマネジャーの方がいます。
「私も本当に苦しいです。でも施設長がそうやれと言うので…」
彼女の表情が、つらそうに歪みます。
サ高住の建設が決まると、患者の奪い合いが始まるといいます。まさに入居者は「患者」であり「利用者」なわけですから、卑近な例で恐縮ですが、「二度おいしい」というわけです。
ビジネスといえば、「利益」を追求することが是とされる風潮…。
その前では、「高い倫理観」など、風前の灯なのでしょうか?
しかしはたして、医療や介護に、ビジネスという用語が似つかわしいのでしょうか?
むしろ、「社会貢献型ビジネス」という呼称を与えることで、「利益」という概念を変える試み(例:社会還元益)を一方でする必要を感じます。
小さな傷が大きな裂け目に、わずかな歪みが大きな歪みになる前に、何から手をつけたらよいのか…。
立ち止まって考える時期に、来ているのではないでしょうか?
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【研修会場・写メ日記】
大分県佐伯市介護支援専門員協議会主催の研修、『ケアマネジャーのコミュニケーション術~「話す力」「書く力」~』の様子です。
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