「感情労働」と「モチベーション」の関係
昨日は、大分市居宅介護支援事業者連絡協議会の依頼で、「元気出そうケアマネジャー!~心の元気とモチベーションアップ~」をテーマに話をしました。ここのところ、依頼の増えているテーマです。
窓口になってくれた河口和之さん(介護支援専門員&社会福祉士)に尋ねました。
「なぜ、私にこのテーマを依頼されたのですか?」
「最近、ケアマネジャーの皆さんが落ち込むことが多くて……。何とか元気を出したいな、そんな機会をつくりたいなと思ってお願いしました。7年前に主任介護支援専門員の研修でお話をお聞きし、私自身とても元気が湧いたものですから」
講演が始まったのは午後2時。2時間30分の持ち時間です。
会場の約200名の皆さんに話しかけます。
「お隣の方と、何をストレスと感じるか、そしてそれがなぜストレスになるのかについて、お互い話をしてください」
すると、「仕事の量が多い」「書類が面倒」「母体の法人がわかってくれない」などなど、ピーチクパーチク(古いですね(^_^;))と話が盛り上がります。
私はその盛り上がりを待って、「では、皆さんの願い(Wish)は何ですか?」と続けます。会場にちょっと動揺の空気が流れます。
「皆さんは、仕事をテキパキ片づけたい? 書類をきれいに仕上げたい? 施設長にわかってもらいたい?」
「人は、“こうありたい”という願いやイメージがあり、それと現実の間にギャップがあるとストレスを感じます。もしかして皆さんの願いやイメージは、書類をテキパキ片づけて利用者さんへの訪問時間を確保したい、母体法人にケアマネ研修の費用を負担してもらいたい、などではないでしょうか? 願いの本質がわかれば、ストレス解決の方向も変わってきませんか?」
次に、職業人(専門職)として、どのようなキャリアデザインを描くのか、その「節目」の話をします。
「就職・配属、抜擢・昇進、転属・転職、事例・経験」などは、専門職としての成長の「節目」になるだけでなく、同時に、ストレスになりやすいことをさまざまな例を挙げて解説します。
そして、専門職の「モチベーションを下げる要因」を説明します。
さらに、「相談援助職と感情労働」の話題に移ります。
アメリカの感情社会学者であるA・R・ホックシールド教授の理論を紹介し、多くの感情労働者(例:看護師、ケア職、相談援助職など)は、いかなる利用者・患者・クライアントに対しても「パーフェクトスマイル」を強要され、それによって「心の傷」が生じるという話をします。
相手が反抗的・自虐的・自罰的・依存的な場合には、とりわけ深刻。「微笑みのルール」で向き合うことによる「心にかかる圧力」は、本来の心に「歪み」をもたらします。
内心は「不全感、無力感、不信感、疑念、罪悪感」などを抱いていても、表向きは「笑顔」で接しなければいけない。
「いい人」でいなければいけない「内的矛盾」を抱えることになる感情労働は、自らの心のマネジメントをしないと、それがやがて「燃え尽き」に通じるのです。
そして、「寄り添い」という言葉のもつ危うさ、心の歪みとしての「感情麻痺と心的感覚麻痺」の怖さ、そうならないためのクライアントとの「心の距離感」の取り方、関係づくりとコミュニケーションの一つの手法としての「表層演技」「深層演技」の可能性などの話から、ではどうすればモチベーションをあげることができるのか、について展開していきます。
さて、ここまでの約90分間で、皆さんの表情はかなり柔らかく明るくなり、笑いもたくさん起きています。それはなぜか。
それは、会場の皆さんが、自分が「なぜ悩んでいるか」「何に悩んでいるか」の整理がつき始めているからです。
人は「迷っている」ときほど、不安で気持ちが滅入るものです。雪山に例えるなら、同じところをグルグル回って命がつきる遭難者のようなものです。
「高室先生のように、技術だけでなく職業人としてのあり方や生き方などを話してくれる先生はいません。実はこの3月で4年間いた居宅を辞めて妻の両親がやっている知的の共同作業所に入るんです。この4年間、いろいろしんどいこともあって、先生の話を聞いていると走馬灯のようによみがえってきて、ジーンと目頭が熱くなりました。後に託す若手の人も一緒に聴いてもらえて、ぼくが伝えたかったことが全部入っていました。ありがとうございました」
車で送迎をしてくれたTさん(35歳:男性)がハンドルを握りながら話してくれました。
モチベーション維持も、専門職としてプロとして「大切な仕事の1つ」。気合と根性は、独りよがりの押しつけでしかありません。
全国で利用者(家族)を支える人たちを支えられる存在でありたい……そのために、私の学びは続きます。
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