「介護」で仕事を辞めるということ
「介護のため、仕事を辞める息子さん、多いですよね」いわゆる介護離職です。
同居介護(遠距離介護)を続けていると身体が持たない、いざという時に仕事を休めない、職場の仲間に気を使ったり迷惑をかけたりする、介護をしていることが職場に知られると左遷される……
辞める理由はさまざまです。
介護で仕事を辞めるとどうなるのか。
もちろん、介護中心の生活が始まります。これまで、仕事に使っていた時間と体力を介護にかけることができるので、無理なく焦ることなく介護に向き合えます。
しかし、それが「“落とし穴”になる」と、認知症の母親を介護する知人の女性が話してくれました。
「私が仕事を辞めたのは、5年前に亡くなった父親を介護したときです。母も体力的にきびしかったので辞めました。でも、実はそれがまずかったのです」
彼女はとても聡明な人で介護関係の本も読みこなし、本格的に家族介護に取り組んだといいます。そんな彼女ですらハマってしまった“落とし穴”とは、日に日に溜まっていくストレスだったのです。
身内のことになるとついつい声を荒げてしまう自分がいる。特に認知症になると、余計にぶつかることが多くなり、とても苦労したそうです。
「だから、今、母を介護していますが、仕事は辞めません。仕事をしている時だけが、気分転換できるのですから。あとはサービスを使っています。ケアマネさんにもどんどん相談に乗ってもらっています」
では、男性の場合はどうでしょうか?
私は研修会などで、次のような質問をします。
「仮に今、皆さんが、仕事を辞め、親の介護を始めてから3年が経過しているとします。そこに中学校時代の同窓会の知らせが届きました。さて、みなさんは参加しますか? それとも欠席されますか?」
多くの女性は、「参加します」に手を挙げます。
ところが、男性のうちの数人は、「欠席します」に手を挙げます。
その理由を聞くと……
「仕事はやっていないということですよね。無職ということですからね……皆の前に顔は出せないですよ」
そこで女性たちは驚きます。「エッ?そうなの?」
実は男性にとって、「仕事」は自分の「勲章」でもあります。
女性の場合は、久しぶりに会ったときでも、家族の話題などで盛り上がります。子どもは何人? 何年生? もう結婚したの?などなど。
ところが男性は、「今、何やってんの?」という問いかけをします。つまり、どういう仕事をしているの? というわけです。
次に聞くのは、職場でのポジションです。係長、課長、部長などをさりげなく言い、「部下は○○人いて大変だよ」と愚痴も披露して、「そうだよなぁ」と共感の輪が広がることになります。
今回の事例の場合は、「介護離職=無職」なわけですから、この手の話題には入れない。むしろ、自分が社会から置いてきぼりをくっているように思え、周囲がまぶしく見えてしまう。皆から同情の目で見られているようでいたたまれない。
だから……出席をしない。このように考えるのが男性なのです。
男性が仕事を辞めると、収入をなくすだけでなく、同僚などの職場の人間関係をなくし、自分の社会的ポジション(拠り所、所属)をなくし、アイデンティティが壊れていくことになります。
介護で仕事を辞めた男性たちの一部は、日中は親がデイサービスに出かけているのでパチンコ屋に入りびたるなど、無為な時間を過ごしている人が多いと話すケアマネジャーは多くいます。
親の年金に頼るしかなく、その収入も限られていますから、次第にサービスを減らし始め、やがて「自分でやりますから」とサービスを切ってくることに……。
カプセル化した親子介護は、次第に、「虐待的な状態」を迎えることにも繋がります。
やがて、縁あってグループホームなどに入所すると、介護からは解放されますが、今度は「お金」が必要となります。
月々10数万円の負担は、無職の身には払えるものではありません。再就職をするにも、男性は前職の収入や仕事内容にこだわるためになかなか職に就けない。
むしろ、数年間の無職という環境に慣れ切ってしまい、身体がついていかないことも多くあります。
このたび、『もう限界!介護で仕事をやめたくなった時によむ本』(自由国民社)という書籍を監修しました。
この本は、いかに介護と仕事を両立させるか、そのために在宅介護のポイントから介護サービスの使い方、施設の選び方、きょうだいや親せきの巻き込み方、近所・近隣とのつきあい方などを指南した、思いのこもった一冊です。ご興味がある方は、ぜひご覧ください。
【ムロさんの写メ日記】
兵庫県の地域包括・在宅介護支援センター協議会阪神ブロックの役員の皆さんです。研修会終了後に「支援困難ケース」のヒアリングに協力いただきました。
初級講師養成講座のビデオロールプレーです。この後、再生をして、自分の話し方や話の構成を自己チェックします。
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