質問が持つ力
「“質問力”を相談援助技術に活かしたい」という依頼が増えています。
いつの頃からでしょうか。私の記憶では3年くらい前から、ケアマネジメントの分野でも「質問力のブーム」が始まったように思います。
私が大切にしたいのは「質問する力」もそうなんですが、まずは「質問が持つ力」を理解してもらいたいということです。
相談援助の場面では、「こんなことを尋ねて失礼にならないかな?」「利用者(家族)さんに、気持ちよく話してもらうには、どのように質問をすればよいかな?」などと悩んでいる人たちが、多くいると思うからです。
さて先日、この“質問力”の研修を、静岡県の吉田牧之原ケアマネジャー連絡会の皆さんと行いましたので、その様子をご紹介します。
まずはいきなりですが……JR島田駅から約40分をかけて会場にたどりつく前の茶畑の眺めです。山の傾斜に這うように茶畑が並びます。
さて“質問力”の研修では、最初に、「質問が持つ4つの力」についてお話しします。
①考える力
②気づく力
③動機づける力
④関係をつくる力
一見、こじつけのような力の説明ですが、これは拙著『ケアマネジャーの質問力』(中央法規)を書いたときに、深く考え抜いたものです。
第1は、「考える力」……
人は質問されると、答えるために考えることを始めます。
つまり、人は質問されないと、そう深くは考えてくれないんですね。
では、考えずにどうしているのか。
日常的には、「そういうものだ」と決めつけたり、思い込んだりしているわけです。
医師の問診の場合を例に挙げると、わかりやすいかもしれません。
まず問診の際、お医者さんは、「今日はどうされましたか?」と患者さんに尋ねます。
患者が「頭が痛い」と答えると、医師は「いつからですか? どのような痛みですか? 熱はありますか?」と質問します。
すると患者は、「3日前からズキズキするような……。熱は38度あります」などと、深く考えてから答えるようになります。
第2は、「気づく力」……
人は質問されて考えると、「そうか、自分は○○をすればいいんだ」とか「○○ができないから、○○ができなかったのか」と、自分が置かれた環境の問題点に気づくことができます。
援助職側などから一方的に説明されても、それは自分で気づいたことになりません。
むしろ、考えを押しつけてしまうことにもなりがちです。
だから、こちらから問いかけて、自分で考えて気づいてもらうというところに、自己選択・自己責任が生まれることになります。
第3は、「動機づける力」……
「もし仮に、みなさんが500万円の宝くじが当たったとしたらどうされますか? 何に使いますか? 誰とどこに行きますか?」
この質問をするだけで、会場は大盛り上がりになります!(^^)!
何しろ、誰もが500万円というお金が突然入ることに、嫌な気分はないわけですからね。
この会場でも……
「旅行に行きます。それもロンドンに!」
「貯金します。もちろん夫には内緒です!(笑)」
実際には当たっていないのに、かなり盛り上がることができました。
そこには、質問のマジックがあります。
それが、「もし仮に……」という最初のフレーズです。
「もし仮に……」という質問をすることで、現状を受け止めながらも、あきらめ気味の利用者(家族)の気持ちを、できそうな可能性の方向に向けることができます、と研修などでは解説しています。
第4は、「関係をつくる力」……
私たちはなかなか、自ら、自分の苦労話や人生でのかけがえのない話をできるものではありません。
なぜなら、相手がその話を聴きたいと思っているかどうか、わからないからです。
一歩間違えば、相手の迷惑になるのでは?と遠慮してしまいがちです。
では、人から質問をされたらどうでしょう?
「ご主人を介護されてきて、どんな時が一番つらかったですか?」
「○○さんにとって、お子さんたちとの忘れられない思い出は何ですか?」
このように人は、質問をされると話しやすくなります。
それが、自分の話したいことであれば、「よくぞ尋ねてくれました」と、生き生きと苦労話や思い出話をされることでしょう。
あの人は、私の人生に興味を抱いてくれている……こんな私の人生に。
人は語ることを通じて、「自己肯定」をしていくといわれています。
そのきっかけをつくるのが、まさに“質問”です。
「質問が持つ力」……もっともっと伝えていきたいですね。
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