「オトコの介護の闇」~虐待を考える~
高齢者虐待に関する記事が止まりません。
特に地方新聞にていねいに紹介されています。先週、高齢者虐待の取り組みでは全国で先進的に取り組んでいる横須賀市で研修講師を引き受けました。
午前は市民の方や民生委員の方、そして介護をされている当事者の方を対象にした講演でした。
午後は市内のケアマネジャーを中心としてサービス事業所の方々も参加され、その数は130名ほどでした。
私なりにわかりやすく話すためには、かなり自分のなかで分析し納得のいく整理がされていないと、受講する皆さんの心には届きませんので、本や資料を読みこみ、自分なりに考える時間をとります。
テーマによっては、半年くらいかけることもあります。なかでも時間をかけたのがこのテーマです。
「高齢者虐待」…どうして身内が身内を虐待するのだろう。どうして育ててもらった中高年となった子どもたちが、80歳を過ぎた老親に手を上げるのだろうか?
憎しみ?怨念?仕返し?懲らしめ?原因はどこにあるのか。私なりに整理できた一つは、きわめて当たり前ですが、虐待の多くは「同居介護」で起こっているということです。近隣・近距離、遠距離の「通い介護」では、あまり起こっている記事は見当たりません。
つまり虐待は「同居介護」で起こる特徴がある。同居介護を続けるなかで、やがて虐待にいたるほどの「激しい葛藤」が生まれ、配偶者や親に手を上げたり、声を荒げたり、無視を決め込んだり。
そして、虐待をする主たる介護者は女性より男性が圧倒的に多いということも特徴です。夫である場合と息子たちである場合といずれかですが、事件にまで発展しているのは「息子介護」が多い。
その息子の傾向として、50代にして「職がない、未婚である、何もしていない」という特徴が多いと現場のケアマネさんから耳にします。このような息子たちは親を施設に入れることを極端に嫌がるといいます。その理由のひとつに「年金」という唯一の収入の道が断たれるからだと。施設に入れたがるのも家族なら、施設に入れたがらないのも家族です。
そして虐待を受けている高齢者は女性が多く、認知症になると、虐待的な状況がより深刻化することに…。介護事件の多くが「親が認知症になった」ことがきっかけになっているからです。
つい10年ほど前までは嫁が姑をいじめる構図が一般的でしたが、いまは、むしろ血縁関係といわれる親子関係で起こっています。ですから私は、高齢者虐待の講演のなかで家族社会学の切り口から家族システムのもつ特徴を紹介します。
それは「非断絶性(やめられない)と非選択制(えらべない)」という二面性です。介護や看護というクライシスになった時、この二面性のもつ矛盾と葛藤が「暴力」となって家族に危害を及ぼすプロセスを話すようにしています。
高齢者虐待の研究はまだ緒についたばかりの感です。高齢者虐待と「家庭内暴力」はどのようにちがうのでしょうか?児童虐待と高齢者虐待に「連続性」はないのでしょうか?
この闇はとてつもなく深く、やるせない気分にさせられます。
介護がつらくとも高齢者虐待となる人とならない人の違いはどこにあるのか…私は「虐待予防」の視点こそ大切だと考えます。
これからも、現場の専門職の皆さんや介護者の方々の声に耳を寄せ、メディアの報道をていねいに読み込み、考えていきたいテーマです。
ムロさんの写メ日記
岡山県老施協主催の施設ケアプラン研修です。みなさん私の埋め込み式レジュメに一生懸命に書き込みをしています
CADLでつくるケアプランの講義の後、演習です。結構、ハードな施設ケアプラン演習です
長崎市でケアマネさんが25名となったメディカルネットワークの連続研修会。今回は「プレゼンテーション技術」です
ディベートを体験しました。テーマは「日本にハンバーガーは必要か」
賛成の主張をする上戎さん
不必要を冷静に主張する重枝さん
主張・反論・総論を各2分ずつとり、最後に判定に。軍配は不必要派に。ところが、さすが長崎です。「みなさんはハンバーガーは反対派ですか?」と尋ねると、たったの1人。なんとみ~んな、ハンバーガーは大好きです。だって佐世保バーガーがあり、角煮が有名な土地柄ですもんね(笑)
今年の3月14日につづき2回目となった熊本県介護支援専門員協会天草支部の研修会です。今回のテーマは「チームケアでつくる利用者本位のケアプラン」です。天草圏域の130名のケアマネジャーや事業所、施設の方が集まりました
施設の生活相談員の方から「施設の職員のチームワークを良くしていくにはどうしたらよいでしょうか?」の質問が。私の近著「伝えにくいいことを伝える77のコミュニケーション」をもとに回答しました
博多駅で鹿児島に向かう新幹線さくらを写メしました
三重県総合文化センターの巨大オブジェ。色合いも奇抜で、なにより踊りだしそうなリズム感が好きです
今週のメールマガジン「元気いっぱい」第303号(無料)は「うまいはその人らしさ」(火曜日配信)です。メルマガは随時登録受付中です。
ケアタウンの公式HPではバックナンバーまで見ることができます。
コメント
虐待の問題は難しいです。特に「金銭的虐待」。これに関しては、表面化していないだけで、実は一番多いのではないかと思っております。
また、先生のブログでは「その理由のひとつに「年金」という唯一の収入の道が断たれるからだと。施設に入れたがるのも家族なら、施設に入れたがらないのも家族です。」とありますが、中には、施設に入れても年金を搾取しつづけ、利用料を払わない、医療費も払わない(年金は厚生年金なので十分支払えるにもかかわらず…)、なんて人も居ますので、施設に入れないだけマシなのかも…と不適切な思いもする次第です。
利用者さんは寝たきりでもう何も分からないから本人に訴えることもできず、すぐに命にかかわるものではないから報道でも取り上げられず、行政もあまり動いてはくれません。(行政にしてみれば、私的な契約における民事のケースだから当然かもしれませんが)
消えた高齢者の問題が表面化し、年金制度の改革が叫ばれる中、このような「金銭的虐待」にももっと焦点を当ててほしいですね。
元研修の裏方さんへ
お久しぶりです。返事が遅くなり恐縮です。
なかなか鋭い指摘は健全ですね。本当にそうですね。金銭的虐待に社会的に焦点を当てる必要を感じます。どうしても虐待という文字の印象が「心理・身体」にかかわる行為を意味するようで、金銭と虐待をいかに認識として一致させるかも課題の一つと思います。
たとえば近親者(つまり身内)による金銭の詐取及び同意なき取得・流用という表現にすれば、より正確でしょうか。
行政的な動きはどうしても鈍くなりますね。基本的に「民事不介入」的体質があり、そこをどう切り開いていくか。
そのためには、判断能力を失した本人(例:認知症高齢者、知的障がい者等)の財産権の保護は民法的には後見制度などで確固とした体系化がされましたが、監督人の厳密な監査だけでなく、財産に関しては信託システムや部分後見人の徹底なども必要と思います。後見人の金銭詐取も年間数億円と報道があったばかりですから。
※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。