奥尻は絆の島
先週は、北海道の奥尻町に研修に行ってきました。函館空港からプロペラ機で30分の島です。
初日は民生委員や役場職員、警察官、町内会長さんなどを対象に「地域のネットワーク作り」を2時間話し、翌日は奥尻町の居宅と施設のケアマネジャーや地域包括支援センター職員、デイサービスや訪問介護のみなさんを対象に研修でした。
人口というより島民3000人のとても小じんまりした町ですから、みんなが顔見知りで、とてもあたたかい気持ちにさせてもらえた、そんな3日間でした。
奥尻町といえば、十数年前に津波が襲った奥尻島です。2日目の午前中、地域包括支援センターの小柳さんに島を案内してもらいました。
「あれが津波記念の塔です。高さが12m近くまできました」
これが12m…ところが今回の東日本震災が32mといいますから、その深刻さはケタ違いです。奥尻島の場合は夜の10時過ぎに津波が襲いました。闇の中での避難はとても大変だったと聞きました。
「今日から大船渡市の行政の方が復興後の視察に来られているんです。あの方たちです」と話す小柳さんの向こうに、町立診療所から2名の男性の姿が現れました。
研修前には、実際に被災に遭った役場の介護保険課長や主管の人にお話を伺うことができました。小柳さんが続けます。
「今回の東北の津波はレベルが違いますね。あちらのほうがずっとすごいです。こちらは航空自衛隊の基地もあり、3日後には支援物資も届いていましたからね。今回の東北震災のテレビを消せと言われる人がいます。津波で子どもや奥さんを亡くされた方でした」
復興後に新しく建てられた家々を抜けて、車は海岸線を走ります。途中、震災後に立てられた防潮堤に上りました。津波が12mでしたから、それ以上の高さとなっています。いわゆる日本一のスーパー防潮堤ということです。
「おかげで、かつての海原が見えなくなってしまい、防潮堤越しに海を眺めている高齢者の方がたまにいますね」
1日目の研修会に、消防署の恰好で参加していたのが三浦浩さんです。彼は被災者で、祖父を背負って逃げた経験の持ち主です。翌日の夕方に、消防署で話を聞くことができました。
「当時、私は高校生で青苗岬に祖父母と暮らしていました。午後10時17分に地震が発生し、木造二階建ての自宅はドーン!という地鳴りと物凄い揺れで停電しました。二階にいたので真っ暗な階段を降りると、祖父がタンスの下敷きになっているのを発見しました。すぐに助け出し、玄関へと向かいましたが、戸が開かず、居間の窓から出た途端、沖から「ゴー」という凄まじい音が聞こえました。それがすぐに津波だと直感しました。どこからか助けてー!という近所の人の叫び声を聞きながら、祖父を背負い祖母の手を引いて避難しました。津波が迫ってくるのを感じながら、やっとの思いで坂に差しかかった次の瞬間、背中から波をかぶり転倒しました。津波がそこまできていたんです。すぐに立ち上がり、必死に高台につながる坂を駆け登りました。どうして助かったのか、しばらく茫然としていました」
三浦さんはその経験から「島民を守りたい」と思うようになり、消防士になったそうです。これまでスマトラ地震でも救援に行った経験もあり、近々岩手・宮城にも行くといいます。
この島は「無縁社会」には無縁と感じました。
とにかくみんなが島民のことを知っている。小柳さんも軽自動車とすれ違うたびに「あの人は〇○さん」「あれは〇○さんの嫁さんの弟さん」とすべて説明してくれます。これには驚きました。すさまじく知っています。島全体が「地縁」と「血縁」でつながっているという印象です。
「認知症で道路を歩いていても誰かしらが『父さん、どこ行くの?』と気軽に声をかけて、家まで乗せて帰ってくれるんです。あの先の煙突が出ている高田さんの家は、自然発生的なデイサービスなんです。煙が出ているとみんなが集まってくる。すごいです(笑)」
地域の「つながりの濃さでは日本一レベル」の奥尻町…
いざという時に、このつながりが「生命の絆」になるということを感じさせてくれる奥尻の旅でした。
ムロさんの写メ日記
奥尻島青苗地区にある津波ポール。12mはすごく高いですね
復興住宅のなかを車は走ります
津波の際の避難階段が延々と。島内の各所にありました
日本一の防潮堤。写真ではピンとこないかもしれませんが、本当に暑さと高さはすごかったです
青苗地区の反対側でも津波の被害がありました。島を離れ、いまは廃屋です。後ろの山は砕石で切り取られたそうです
津波の被災の経験から消防士になった三浦浩さん。「NHKのど自慢」にこの制服で登場して、島民と上司をアッと言わせたそうです
向かって右が島内を案内してくれた小柳さん、左が千田さん。どちらも島民に頼りにされる保健師さんです
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