「男らしさ」が邪魔をする
全国で行う研修のテーマは、ケアマネジメントとモチベーション、地域福祉やネットワークに関するのが多いのですが、ここ数年は高齢者虐待に関わるテーマも増えています。
先週は、岩手県で権利擁護セミナーに呼ばれました。中ホールは約400名のケアマネジャーなどの専門職とグループホームなどの関係者、および民生委員・権利擁護委員のみなさんで埋めつくされていました。
私の高齢者虐待のセミナーの切り口は「予防」です。そうならない、そうさせないためにどうすればよいか。私は家族の「歪み」や家族の特質など家族社会学の視点から読み解き、介護と家事を分け、介護ストレスのひとつの現われとして高齢者虐待を説明します。
なかでも「性差」については、深く切り込むようにしています。
反響のあった2年前のメルマガ「元気いっぱい」からちょっと抜粋してみます。
「こういう時って、男らしさが邪魔なんですよね」
知り合いの腕利き?ケアマネジャーさんが私につぶやきます。85歳になる某男性介護者さん、ご自身も持病を患っていてもの忘れもひどい。外に出ることも少なく、今では要介護4の妻の介護が生活の柱というか「生きがい」になっています。
ショートステイの利用を勧めても頑としてきかない。自分もつらいはずなのに「大丈夫です」と弱音を吐かない、助けを求めない。息子たちの言うことなど耳も貸さない。そのくせ寂しがり屋。さすがの彼女も「これではダブル認定寸前です」と手を焼いています。
事例検討会の演習で持ち寄る困難ケースの多くに、男性にまつわるものが多くなってきていると実感します。セクハラ行為をする、徘徊する、閉じこもる、暴力を振るうだけでなく、介護する息子が働かない、パチンコに明け暮れている…いずれも男性たちが起こす面倒事の多いこと。犯罪者の約8割を占め、ホームレスが9.5割など、社会的マイナス現象の男女比のほとんどが男たちです。「オトコが壊れてきている」と同性でもため息をつきたくなるほどです。
そんな八方塞がりの状況に光明を与えてくれるのが「男性自身を学問する」という学問。それがずばり、社会学の分野である「男性学」です。
男性学には3つの分野があります。
第1が企業社会での働き方から明らかにしようとする研究、第2が家族における男性の実態に焦点をあてる研究、第3が数量的分析だけでなく、インタビュー調査や観察等で男性の生活や経験の細部を研究するものです。
とても興味深いのは、男性学から解き明かす「男らしさ」は、生物学的なとらえ方でなく、社会的・歴史的に「生産」されたものであり、現代の男たちがそれらに縛られながら苦しみ、もがき、かつ「再生産」の主体となっている実態です。そして、そのような「男らしさ」を生み出しているのが、母となった女性自身たちあるとも指摘します。
いま、高齢期を迎えた男性は「3つの危機」にさらされているといいます。その第1が退職による職業上の地位・役割の変化(喪失)、第2が日常生活に必要なスキル(家事力)が不足していることの表面化(粗大ごみ化?)、第3が高齢期をいかに生きるかが定まらない自己に対するアイデンティティの喪失(自信喪失)です。
これらは現役時代に男性中心で享受した「利益」の「つけ」であり、男性の「生きにくくさ」の原因となっていると説きます。
「会社人間」から「社会人間」への脱皮と「生活面での自立」こそ、男性高齢者支援の要となってきています。
私はこのメルマガを書いてから、さまざまな「男らしさ」で苦しむ男たち、とりわけ介護の現場では突出してしまっている印象(特に介護ストレス)をもちます。かつて厚労省は「子育てをしない男を父親とは呼ばない」という強烈なポスターを作成しました。いまなら、さしずめ「介護をする息子の心はあたたかい」なるイメージポスターも必要なのではないかと思います。
いかがでしょうか?
ムロさんの写メ日記
岩手県権利擁護セミナーを主催した岩手県職員のみなさんです。おつかれさまでした<(_ _)>
先週、さわやか福祉財団の定期総会に3年ぶりに参加することができました。向かって左から堀田力理事長、中央が田中滋慶応大学教授、右が辻哲夫東京大学教授(元厚労省審議官)。これからの地域包括ケアシステムに関する斬新な議論がされました
先日の東京マラソンの疾走風景。知り合いが歩道橋から写メしたものを転送してくれました。いやあ、すごいですね
長崎県佐世保市のハウステンボスです
島根県松江市で見つけた不思議な漢字の倉庫。この中には、祭りの山車で引く直径3m以上はある「大太鼓」一基が納まっているそうです
今週のメールマガジン「元気いっぱい」第218号は「「文章」は構成づくりが命!」です。ケアタウンの公式HPではバックナンバーまで見ることができます。
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