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高室成幸の「ケアマネさん、あっちこっちどっち?」

「みんなやってんじゃん」意識と割れ窓理論

 先日、中央法規出版(代々木駅徒歩2分)に出かけて『おはよう21』の特集の件で打合せをしました。「最近、また読む人が増えてきていますよ」と、本ブログも担当する平林さんからうれしい情報をいただきました。
 このようなリアクションはうれしい限りです!(^^)!

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 さて、今回はちょっとおもしろい理論を紹介します。
 その前に…私は主任介護支援専門員研修で「介護支援専門員の倫理」を担当するときがあります。倫理というとちょっと難しい印象ですが、簡単にいうと「規範」ですか。まだむずかしいですね…。一般的にいうと「人の道」なんて言い方がありますから、それに準じると、専門職としての「守るべき姿勢、踏みはずしてはいけない姿勢」といっていいでしょうか。みなさん、イメージが湧くでしょうか?

 私はこの講義をするときに、「もしみなさんの心に悪魔が棲みついたら…」と例を挙げ、どのような踏み外し方をするかを話し合ってもらうことがあります。
 最初はみなさんの話が盛り上がらない。なぜなら「不謹慎」だからです。そこをあえて、いくつかの不謹慎なあってはならないような例(本人の了解を得ずに目いっぱいにサービスを入れまくるとか)を示して、考えてもらいます。

 そこでみなさんにご紹介したいのが「割れ窓理論」です。この理論は、1969年にアメリカでジョージ・ケリング(犯罪学者)とフィリップ・ジンバルド(心理学者)がまとめた理論といわれ、リスクマネジメントにも応用がきく中身ともいわれています。

 さてイメージしてください。
 設定は、普段よく通る道です。そこに前かごのある自転車が数日間放置されていたとします。通行人が、たまたま飲み終わったペットボトルを手にしていて「どこかに捨ててしまいたいな」と思って歩いていました。
 さてここで質問です。
 前かごには何も入っていません。さあ、通行人たちは手にしたペットボトルを捨てられるでしょうか? 大半の人は捨てないだろうと予測します。そう、それが正解です。空っぽの前カゴに入れることには勇気? がいるからです。むしろ最初に罪をおかす罪悪感といっていいでしょうか?

 しかし、前かごに空き缶が「1つ」入っていたとします。
 さあ、通行人たちはどういう行動をとるでしょうか? 実際に実験してみると、今度は多くの人が捨ててしまい、あっという間にゴミの山となるそうです。

 これで誰も見ていないとなれば…その速さは倍速になるのではないでしょうか。

 これは、みずからがルールを破ることは容易ではなくても、誰かが破ったのを真似するのはいとも簡単という人間の心理作用を証明しているのです。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というギャグ(懐かしいですね)はそのような集団心理(集団暴力?)をついていたのかもしれませんね。

 実際のケア(仕事)の現場ではどうでしょう。ちょっとした、やってはいけない行為をやってしまった。でも周囲がそれを知ったときに、その行為(不正な保険請求、記録の改ざん、苦情や事故の隠ぺいなど)をとがめなかった。すると、その状態はまたたく間にエスカレートしてしまうことを示唆しています。
 「厳密にはバツなんだけど、これぐらいは…」「なんだ、誰もチェックしないんだ」「苦情が多いと叱られるから、内緒にしておこう」「私だけじゃない。みんなやってんじゃん」
 自分中心の雑なケアマネジメントやサービスをしていても誰からも注意されない。利用者(家族)に不愉快な思いをさせていても苦情としてあがってこない。「だったらいいじゃん」ととがめられないことをいいことに居直っているスタッフがいれば、サービスの質にバラつきが生じてきます。
 それだけで済むのでなく、やがてとんでもない事件に発展することになったら…その時、「そんなつもりでなかった」といくら言っても、すでにコト遅しとなったりします。

 ヒヤリハットの話し合いはリスクマネジメントとしては効果があります。その際に大切なのは「ダメなものはダメ」とはっきりとおたがいが気づける、立ち戻る軸があること。それが「勇気」という個人プレーでなく、職業意識や倫理、理念として定着する努力をしている組織(法人)こそが、「質の高いサービス」をめざしていけるのではないでしょうか。

 堤防の決壊も「蟻のひと穴」から始まるという例えも同じことを伝えているのかもしれません。

ムロさんの写メ日記

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長崎に近づくと眼下に広がる沿岸の写真です。ここにも人の暮らしがしっかりあると思いながら、シャッターを押しました

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愛知県社協の事務局のそばにあった雛あられの商品棚。見ているだけで、ほほえましく、つい笑顔になってきますね

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山形県のある飲み屋さんのカウンターにありました。なつかしい岩倉具視(500円札)、伊藤博文(1000札)に、よく見ると100円札の板垣退助が…懐かしくて懐かしくて、これも写メしました

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コメント


 ブロークン・ウインドウズ理論のお話し、非常に興味深く拝読させていただきました。先生の倫理の講義も面白そうですね。なかなか「倫理」の講義は、講義する者の人物像や所属している組織に対して「そういうお前や所属する組織はどうなんだ」と言われそうなので、このコマは講師を捜すのが、実は一苦労なんですよね。
 以前、とある経営コンサルタントから「牽制の無い組織は腐敗 する」との言葉を聞きました。なるほど、水は低きに流れます。また、私だけじゃないと責任転嫁できればますます倫理は失われます。
 でも・・・。最初の「有りの一穴」をふさぐことがかなり勇気がいることだったりします。そのことも、痛感させられる、今日この頃であったりします。


投稿者: 研修の裏方 | 2010年02月14日 15:27

研修の裏方さんへ

 「牽制のない組織は腐敗する」とは、わかりやすいたとえですね。さらに「権勢ばかりの組織は倒れる」とも言えるかも?
 自制と自省、謙虚と振り返り・・・
 そういえば「頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」という美しいたとえもありますね。
 完ぺきではないからこそ、勘違いは要注意ですね。
 専門職の「上から目線」も、どこか共通するのかもしれません。


投稿者: たかむろ | 2010年02月16日 11:05

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
高室成幸
(たかむろ しげゆき)
ケアタウン総合研究所所長。日本の地域福祉を支える「地域ケアシステム」づくりと新しい介護・福祉の人材の育成を掲げて活躍をしている。「わかりやすく、元気がわいてくる講師」として全国のケアマネジャー、社協・行政関係、地域包括支援センター、施設職員等の研修会などで注目されている。主な著書に『ケアマネジメントの仕事術』『介護予防ケアマネジメント』『ケア会議の技術』『ケアマネジャーの質問力』(以上、中央法規)、『地域包括支援センター必携ハンドブック』(法研)など著書・監修書多数。

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