居酒屋デートで介護
今年もあと一週間となりました。みなさんの一年は吉でしたか? 「もちろん、大吉でした!」という声もあれば、「結構たいへんなこともあり、でもいいこともありで。差し引きで小吉にしておきます」なんて人もいらっしゃるのではないでしょうか。
物事、受け取り方でずいぶんと印象も違えば、朝のおめざめや街を歩くテンポもちがってくるのではないでしょうか。良いように考えるのも才能かもしれませんね。
さて今年最後のブログは、島根県M江市で出会ったあるご夫婦のエピソードをご紹介します。
「あんたええ男だねぇ、ええ男だぁ」
先ほどからしきりに私のほうを向いてほめてくださる75歳前後の男性の方がいます。「ママさん、この人、なにしとらっしゃるんだぁ?」と、カウンターごしに団塊世代のママに語りかけます。
「こん人は講演を、しとらっしゃる人だぁねぇ…(笑)」
「えぇ、ちょっと人前で話したりしています」
「なにを話しとらしゃるんだぁ?」
「介護の仕事をする人に話をしています」
私をジーッと見上げる視線を送るのは奥さんのようです。夫の話に割り込むことなく、コップ一杯のビールをほんの少しずつ、少しずつたしなむように口に運ばれます。その様子は夫唱婦随を地でいくような印象です。
ご主人がなんども私の話題を繰り返します。酔いも回ってさらにくどくなってきます。でも奥さんは、冷静に落ち着いて凛としている風情です。
「たしか京都の出身ですよね?」とママさんが思い出してくれました。
「ええ、市内です」
すると、やおらじっと見つめていた奥様が「私も京都にいたことがあって、親戚が踊りのお師匠をやっているのよ」と語り始めます。
やがて時計の針は深夜の11時を過ぎたころ、「さあ、帰るわ」と2人の姿がのれんの向こうに消えました。
「あのご主人さんは認知症ですか?」
「ううん、反対だがねぇ。ご主人は元公務員で奥さんがさきに呆けちゃったんで、一人で面倒をみているそうよ。昼間は寝て、夜になるとうちに一緒に来るの。奥さんがカラオケ大好きだから2人でいらっしゃるに(笑)」
聴くと、ご主人が一手に家事までやってらっしゃる様子。ところが近頃は血圧が高くて、フラつくことも増えているとのこと。
どうやら、介護としてカラオケが歌えるこの店に、2日と空けずに通っておられるらしい。ご主人の介護ストレスの解消にも良いようです。夕方7時に顔を出してから約4時間。他のお客さんも事情がわかっていて、お二人にやさしい声をかけるそうです。
「私ね、このご夫婦と話をしていると、自分がやさしくなれるんよ。それが好きでねぇ。ええご夫婦だわ」
通所介護に出向いても、そこはさまざまな疾患や障害を抱えた要介護の方々ばかりで、お酒をまじえてのカラオケとはなかなかいきません。
景気が悪くなり、次々と飲み屋さんが閉めてしまっています。そんなお店をしばし「サテライトデイサービス」(ちょっとお酒付き)として再オープンすると、ずいぶんと男性たちがやってくるのではと思いを馳せました。
今年もあとわずかとなりました。
世間は不況と派遣切りのニュースばかりです。新宿の地下街に通じる階段に新顔のホームレスの方々が増えた印象があります。
介護現場の人手不足と産業界の人余り。この究極のマッチングに日本経済と高齢社会の処方箋のポイントがあるように思うのは私だけでしょうか?
それではみなさん、よいお年をお迎えください!(^^)!
ムロさんの写メ日記
島根県M江市の居酒屋「あまがえる」。手前のお二人が今回登場の方々です
銀座の資生堂前のクリスマスのイルミネーションです
銀座のショーウインドウに飾られたいちご大福たち。美味でした
新宿駅東口でカラスの見世物。写真一枚300円。すべては80羽いるタカやキジ、カラスたちのえさ代に消えるそうです。腕に乗るカラスにびっくり。ヒナから仕込むとここまで人間に馴れるそうです
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