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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

ブリスベンからモートン島

 ブリスベンに一泊して、朝からジョンのタクシーを呼んで、港まで送ってもらった。荷物を預けたら、船までフォークリフトで運んで積んでいた。広島行きの高速船くらいの船2隻に満員の客を乗せて、1時間ちょっとでモートン島に着いた。ちょうど松山広島くらいの距離のリゾートアイランドだ。売りは何と言っても、野生のイルカへの餌付けだ。

佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」2012年2月16日
モートン島の船着き場からの景色

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 イルカの餌付けは夜なので、昼間は浜辺で泳いだりしてゆっくりと過ごした。浜辺からは何回も、観光ヘリが着陸したり飛び上がったりしていた。日焼け止めは塗ったのだが、半日いると、背中やお腹や膝など、真っ赤に焼けてしまった。モートン島に一泊するので、泊まるホテルのカードキーを持っていたのだが、買い物も全部キーで済ませられる。ぼくがみんなのアイスを買いに行ったのだが、キーと一緒に、部屋番号を口で伝えないといけないのだが「フィフティーン」と言う部屋番号がとっさに出てこない!店員のお姉さんは待っている。やっと思い出して言ったのだが、アイスを受け取ったら、波津子が追加注文を言いにきて、また言うべきときに「フィフティーン」を忘れてしまった。店員のお姉さんに「ドント・フォゲット」と言われてしまった。

 海岸を散歩して、人のいないヤシの木陰で寝転んだ。実に平和な浜辺だ。ヤシの木には年輪はないけれど、どのくらい生きているのだろう?オーストラリアは戦地にならなかったと思うけれど、ヤシの木は熱帯地方であった日本の戦争のことは知っているのだろうか?

佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」2012年2月16日
浜辺で側にやってきたカモメ

佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」2012年2月16日
熱帯性植物の気根の前に立つぼくは既婚


 さて日が暮れて、夕食を食べているところから見える桟橋に、人が集まりはじめた。イルカが来ているらしい。ぼくたちも桟橋に向かった。英語で餌やりの手順のアナウンスがあったが、娘の旦那さんの聞き取ったところによると、希望者は桟橋横の砂浜に並ぶらしい。

 オーストラリアの法律では、野生のイルカにエサをやるときにはイルカに触れてはいけないらしいし、数センチ以上近づいてもいけないらしい。クジラも数メートル以上近づいてはいけないことも決まっている。こういう国民性が、日本ではテロリストとまで言われるシーシェパードへの支持につながっているのだなぁと思った。この国の自然保護はさまざまな場面で観光客にも垣間見える。

 浜辺には数百名が、イルカ5頭に対し5列に並んでいる。エサをやるときにストロボを光らせてもいけないので、桟橋照明の明かりを頼りに、桟橋近くの列が一番人が多い。最後尾あたりに並んで1時間くらい待って、やっと順番が来た。まずはバケツのカルキ臭い水で手を消毒だ。そのあと小魚を1匹ずつ、飲み込みやすいように頭を前にして手に持つ。じゃぶじゃぶと海に入って行き、インストラクターの合図で魚をやる。イルカは自在に泳ぎ回っており、自然に手元に近づいたタイミングでエサをやる。イルカの冷たい口に触れた。エサを引っ張るところが、当たり前だがイルカは生きていた。インストラクターがもう1匹くれて、2回やることができた。

佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」2012年2月16日
エサを求めて船着き場の近くにやってきたイルカたち

 早朝の船でブリスベンに戻り、ジョンのタクシーを呼んで、さらに北のケアンズに飛ぶために空港まで送ってもらった。まだ飛行機まで時間があるので、ジョンがサービスで、ショッピングセンターに案内して待っていてくれ、1時間くらいショッピングを楽しむことができた。ケアンズ空港の乗り場では30分以上前なのに、もう客が飛行機に乗りはじめていて、格安航空のジェットスターは珍しく定刻に飛立った。


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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