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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

世界死刑廃止デーpart2

 ぼくも死刑廃止運動を昔やっていて、獄中者とよく文通していたのだが、実際に会ってみると、マスコミ報道の凶悪なイメージとのギャップに驚いたほど、どこにでもいるような普通の人だったものだ。そして当事者は獄中者で、ぼくは支援者という立場だった。このブログを読んでいる人はご存知だろうと思うけれど、ぼくはいつも当事者として、書いている。支援者ではないという自覚がある。それで運動内部での嫌なごたごたもあったりして、獄中者の支援者であることを止めてしまった。支援者はいつでも支援から下りることができるというのが、当事者と決定的に違うところだ。当事者は逃げられない。しかし今も死刑の執行があると、ぼくが文通したり面会したことのある人が処刑されていないか、必ず名前を確認する。
 支援者の中には、未決の間に死刑囚と結婚したり、養子縁組をしたりする人もいる。死刑囚との共依存を超えて、交流を続けたいという必死な思いなのだろうと思う。しかし現実に死刑確定後の交流が認められることは少ない。隔離することが死刑囚の心情の安定につながるというのが当局の方針だ。

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 本当に重大犯罪を犯した人は、ほとんどが育ちの不幸を抱えている。過去のブログでも取り上げたけれど、極端に貧乏だったり、虐待やいじめが酷かったりして、本人が責任をとれないほどの理不尽な怒りを抱えていることが多い。支援者が深く同情してしまうのもよく分かることだ。自分では自殺できなくて、死刑になりたくて重大犯罪を起こす人の気持ちも分かる気がする。犯罪を犯す結果になるかどうかは、本当に紙一重の運だったりするのだろう。

 高齢者や障害者が福祉につながれなくて、明日の食事を食べさせてくれる刑務所に入りたくて、わざと犯罪を繰り返すこともある。この国の福祉の貧しさかもしれない。

 日本ではいまは治安がよくなって、戦後で一番凶悪犯罪が減ってきている時期だ。しかし多くの日本の人は「犯罪が多い、危険を感じる」と思っていて、厳罰化が進んでいる。死刑を支持する世論は85%だ。夜に女性が街を歩けるという、世界でも珍しい国だというのに。マスコミがあおるということもあるだろう。昨今のマスコミは自分で取材して記事を組み立てるということが少なくなっているのではないだろうか。警察発表さえ書いて紙面を埋めればいい。そういう安易な報道姿勢が、事件の記事ばかり多く報道されて、結果庶民は犯罪が増えていると思っているのではないだろうか。

 鉢呂経産相が辞任することになった「放射能をつけてやる」発言も、最初に報道したフジテレビは、「担当者が現場にはいなかった」と逃げているし、誰がどういう成り行きで発言を聞いたのか、未だに分からないまま、新聞の一面トップを飾る記事となった。「死の町」発言も、よく調べてみると「死の町の復興を進めていく」という「復興」の強い意志の感じられる発言だった。どういう文脈のなかで使われたかを報道しないで、週刊誌の見出しのように、読む人をあおり立てる。裏をとらなくてもいい、スキャンダルと、警察発表と政府発表ばかり増えて、いったいジャーナリスト精神はどこに行ったのだろう?

(Part3に続く)

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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