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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」 2011年10月

世界死刑廃止デーpart3

 さて、死刑の問題を考えるのに、「被害者感情」はとても大切だ。残された身内の愛が深いほど、「加害者を殺してやりたい!」とおそらく100%の身内が思うだろう。1人で抱え込んでいたら、理不尽な出口のない思考にとらわれて、怒りの出口は、犯人の処刑しかないとぼくだって思うだろう。突然連想がぱあーっと広がって、激しいPTSDの発作にだって襲われるだろう。生き地獄を味わうかもしれない。
 愛する人の命を救えなかった自分の情けなさに、自殺だって考えるかもしれない。そこまでいかなくても1人で考え込んで、確実にうつになってしまうのではないだろうか。そういうときに聞いてくれる第三者、カウンセラーだとか、そういう寄り添う人が被害者の身内には必要だが、愛する人を失った深い孤独に共感してくれる人などめったに身近にはいないだろう。
 しかし「孤独だ!」と打ち明ける人がいることは、心の傷の大きな慰めになるかもしれない。獄中者はもれなく貧乏で、莫大な補償金もはらえない。もしもPTSDが放射能の半減期のように癒えるとすれば、国は早急にそういう犯罪被害者に対する十分な、法的な保護の体制をつくるべきだ。



世界死刑廃止デーpart2

 ぼくも死刑廃止運動を昔やっていて、獄中者とよく文通していたのだが、実際に会ってみると、マスコミ報道の凶悪なイメージとのギャップに驚いたほど、どこにでもいるような普通の人だったものだ。そして当事者は獄中者で、ぼくは支援者という立場だった。このブログを読んでいる人はご存知だろうと思うけれど、ぼくはいつも当事者として、書いている。支援者ではないという自覚がある。それで運動内部での嫌なごたごたもあったりして、獄中者の支援者であることを止めてしまった。支援者はいつでも支援から下りることができるというのが、当事者と決定的に違うところだ。当事者は逃げられない。しかし今も死刑の執行があると、ぼくが文通したり面会したことのある人が処刑されていないか、必ず名前を確認する。
 支援者の中には、未決の間に死刑囚と結婚したり、養子縁組をしたりする人もいる。死刑囚との共依存を超えて、交流を続けたいという必死な思いなのだろうと思う。しかし現実に死刑確定後の交流が認められることは少ない。隔離することが死刑囚の心情の安定につながるというのが当局の方針だ。



世界死刑廃止デーpart1

 10月10日は体育の日で祝日だった。ヨーロッパでは同じ日に世界死刑廃止デーを祝ったそうだ。東京では10月8日に新宿で集会があったようだ。400人のホールが満席で、外でテレビを見て参加した人もいたそうだ。
 法務官僚は死刑廃止を絶対に認めない。死刑執行のない年をつくってしまっては、死刑執行停止状態になってしまうという危機感があるのだろう。かつては100名以下であった死刑囚(2000年で53人だった)が今は120名いる。昨年7月に千葉景子法相による2名の執行があった。過去に3年以上執行がなかった時期があり、後藤田法務大臣が再開するまで、法務官僚には死刑執行が停止するというたいへんな危機感があったようだ。今年も野田総理のもと、法務大臣に執行のサインをさせる、法務官僚の圧力が強まると予測されている。



人は死ぬ前に何を思うのだろうpart3

 2010年2月のぼくのブログでシベリア抑留された石原吉郎のことを書いた。いつ終わるとも分からないラーゲリ(強制収容所)の生活で、凍りつくような孤独の中で、「ここにおれがいる。ここにおれがいることを、日に一度、必ず思い出してくれ。おれがここで死んだら、おれが死んだ地点を、はっきりと地図に書きしるしてくれ。(中略)もし忘れ去るなら、かならず思い出させてやる。もし捨て去るという、明確な意思表示があれば、面倒を起こしてこれを受けとめる用意がある」と。何という怒りだろう。おれのことを思い出せ! と強要するほどの、ロシアの地で深い孤独の中での、死を覚悟した言葉だ。それほどに一人孤独に死ぬことは耐え難い。



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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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