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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

援助者というお仕事part2

 「精神障害者という人たちを専門家としてサポートする」という精神保健福祉士の仕事内容の、そもそもの定義がぼくはおかしいと思っている。
 「精神障害者とは何か?」。まあ端的に言えば、「精神科にかかっている人たち」だろう。精神科にかかっている人たちは、普通は福祉との接点ももっていて、ある意味救われている人たちである。それよりも、孤立していて精神科にもかかっていない、精神的に危なっかしい人のほうが、よっぽど援助が必要なのではないだろうか? 必要に違いない。っていうか「同意反復」。

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 専門家という人たちは、なぜ「援助する」という職業に就きたいと思ったのだろうか? 「食っていくため」と言うなら、実に健全である。「やさしさを仕事にできるから」。もちろん専門職にはそう言った面もあるだろう。当然やさしさには相手がいる。相手を世話することに「やりがい」を見つけたのだろうか? 一見よい仕事だとも見えるが、ちょっと待ってほしい。
 専門家の皆さんは、一度仕事を離れて、「なぜ自分は相手のお世話をするのが好きなのか?」を振り返ってほしい。そこに辛かった自分の過去のトラウマの影響はないのだろうか? トラウマが過剰に相手の世話をすることに、向かわせてはいないだろうか? 必要以上に人に必要とされることに飢えてはいなかっただろうか? 自分というものがなくて、人に認められたい寂しさを埋めるためではなかったのか? こんな自分を偶然見つけて深く向き合えば、それだけで援助を対象化することができ、冷静な援助を行えるのではないだろうか……。
 ムゲンはオープン以来23年間「居場所」であることを掲げてきた。最近就労継続支援B型になったけれど、まず居場所であることは変わりない。メンバーも基本友人関係なので、援助計画なども一応は立てるけれど、そんなものマジでやられたら困ってしまう。阿吽の呼吸、仕事と居場所のバランスの問題というやつだ。
 専門職よりむしろ近所のおばさんのほうが、いい援助者になったりする場合もある。昔よくいた、おせっかいにも若者のお見合いをセッティングするようなおばさんである。いまは地域の崩壊が進んでいて、近所のおばさんたちは姿を消してしまったかのようだ。
 ポコポコとできているNPO法人やスポーツクラブや趣味などのサークルがその役割を肩代わりしつつあるのかもしれない。NPO法人は女性の社会進出の場としていま一躍脚光を浴びているが、江戸時代にはインテリとして知られていた、寺のお坊さんたちが庶民を集めてやっていたような活動だ。精神保健福祉士の国家資格化も、できるときにはぼくも反対運動をしたものだけれど、本当に地域の作業所とかを支えているのは専門家ではなく、じつは多くの無資格のおばちゃんたちだ。障害者メンバーのやり残した仕事を残業手当もなく片付けたり、休日はボランティア出勤したり、障害者を叱ったりあるいはなだめたりもできる、喜怒哀楽の激しいワガママなおばちゃんたちだ。
 福祉の現場は、おばちゃんや、おばちゃん的性格を持った男性の職場だ。専門家は頭がいい人が多いし、行動すれば行政も動く場合もあるとは認めるけれど、地域施設には基本、専門知識を持った人はいらない。小さな作業所のおばちゃんたちは、いまも現場で雑用をコツコツとこなし、残業に埋もれ、呻吟し泣き笑いしている。


コメント


>それよりも、孤立していて精神科にもかかっていない、精神的に危なっかしい人のほうが、よっぽど援助が必要なのではないだろうか? 必要に違いない。

それは、自分の体験からも、まさにその通りだと思います。精神障害者にかかわらず、重大な問題を抱えていても、どこにもつながることが出来なく、苦しんでいる人たちの方を何とかできたら・・・つないでいけたらと思います。

>そこに辛かった自分の過去のトラウマの影響はないのだろうか?

あります。自分の体験があって、この世界(支援者)に入ったようなものですから。

>専門職よりむしろ近所のおばさんのほうが、いい援助者になったりする場合もある

そう思います。

いつか、地域に密着した、いろんな人(障がい者、お年寄り、子どもまたは、様々な問題を抱えている人)が気軽に、日常生活に溶け込んでいるちょっとした空間、居場所、でも何かあったときにはそこに行けば力になってもらえる協力者も常駐しているような居場所を作りたいです。
でも、食べていくために仕事としてそれが成り立たなければならないので、難しいところです。

ある人にその夢を語ったら、実現するかしないかは、「あったらいいね」と思うか、「出来たらいいね」の違いだと思うといわれました。実現していく人は「出来たらいいね」とおもうらしいです。私は、その違いの意味が良くわかりませんが、あったらいいのにというものの実現に向けて目標達成の為にじたばたしているただのおばさんワーカーです。


投稿者: たんぽぽ | 2011年08月26日 17:07

虐待の現場も見つけにくいものですが、本当に苦しんでいる人って、本当に分からないです。話し込んでみないと。
ムゲンも昔は誰もが来れる居場所で、障害者も健常者も関係なく立ち寄れたものですが、今では経営の安定と引き換えに、施設として、メンバー登録も必要になり、健常者は、お母さんか、他施設職員くらいしか、訪れる人もいません。初期の理想を捨てた訳ではないですが、残念な現実です。


投稿者: 佐野 | 2011年08月29日 23:10

ともに大変ですが、理想を求めてがんばっていきましょう。私は、地域でまずは子どもを中心に様々な人と交流できる場所を近いうちに思い切って実行しようかなと思っていますが、いつも、ムゲンさんとはつながりたいと思っています。元気にムゲンさんのところへ自分の計画が話せ、互いによき協力関係となれるような自分に慣れるよう日々、妄想?しています。そのときは、ぜひよろしくお願いします。


投稿者: たんぽぽ | 2011年09月01日 00:39

ええ、ぜひお話ししましょう。
ムゲンに子どもは来ないですね。これも問題なのですが。作業所によっては幼稚園と交流したりしているところもありますが、出て行くのでは無く、いつでも来てほしいものです。立て替えをすれば、店舗形式にもなるので、少しは入りやすいかな?とも思います。


投稿者: 佐野 | 2011年09月01日 19:11

建て替えされるのですか?
ムゲンがしまっているときに何度か前を通りましたが、建て替えする前に今のムゲンにもお邪魔したいのでがんばります。


投稿者: たんぽぽ | 2011年09月02日 23:21

10月末工事開始になると思います。2月初めには完成とか。


投稿者: 佐野 | 2011年09月05日 21:01

建て替え場所はどのへんになるのでしょうか?


投稿者: たんぽぽ | 2011年09月30日 09:34

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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