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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

フクシマ

 愛媛県でも原発事故がニュースになる。輸出した愛媛県産のシソから、シンガポールで放射性物質が検出された。知事はカメラの前で「他県のシソが混入していた」と言った。「他県」と何度も繰り返すので、気になっていたら、ネットで「福島県産」だと分かった。どうせあとでバレるならあっさりと「福島県産」だと言えばいいのに。言えば知事は正直者というプラス評価になったのに。
 また4月6日には愛媛県で、大気中からセシウムが検出された。政府はデータを出さないけれど、ドイツの気象局発表のデータで放射能は沖縄までも飛んでいることが分かっている。
 日本は、世界に誇るSPEEDIという緊急時に放射能の広がりを予測するシステムを持っている。枝野さんが一度だけ公表したが、その後は発表されていない。ちっともスピーディじゃないと言われている。細かな地点の予測は困難だということだが、それ以上に政府がためらっているのは、パニックを恐れてのことだろう。しかしここまでくれば、ほとんどの国民も腹をくくっていると思う。政府は国民を信用しなさすぎだろう。がんの告知にも似ている。家族はがん告知を本人にするかどうか悩む。しかし告知を受けた本人はおおむね、告知を受けなかった場合より、よりよい生き方をすると言われている。

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 食品や水から基準値を超える放射線を相次いで検出と言うニュースがあった。それをうけて、政府は放射線基準値を緩和すると発表した。
枝野「大変です! 総理。原発内の水たまりから通常の1000万倍の放射線です」
菅「大丈夫だ! 基準値はこちらで押さえてある」
というギャグを思いついたが、環境省の反対で、基準値緩和は見送られたと言う。補償額を減らすことばかり目がいって、「いま緩和すれば、政府の信頼が低下します」と、首相に進言した側近はいなかったのだろうか?

 ケーキにハエがたかれば、誰も食べないのが普通だ。科学者は「たかったところだけ除けば、食べられます」と言う。テレビで専門家が100回「安全です。」と言ったところで、風評被害は収まらないだろう。専門家には庶民の感覚が分からないのだから。専門家が「ハエをスイーツの店に入れた店の責任だ」と言えば、まだ納得できるが、「ハエのたかったケーキの食べられない、無知な庶民が悪い」と言うのでは納得できない。
 
 原発では炉心の冷温停止に至る方針も示されないまま、だらだらと放射線を放出しながら、いまも水をかけて冷やし続けている。最悪、炉心内で水素爆発が起こり、関東の人たちが一斉に関西に逃げてくる可能性もまだ消えてはいない。2週間で収束し、セシウムの放出もなかった、スリーマイル島の1基の事故では、廃炉の準備ができるまでに、15年がかかっている。半減期が30年のセシウムを大量に放出した4基の福島では、膨大な年月、何世代にもわたるかもしれないことは、素人目にも分かる。
 福島の人々が福島ブランドの作物など(海外では、日本製の土で作った食器にもすでに警戒心が出ている)の回復には絶望的になっていることは、容易に想像できる。作付け制限地域の農民が、マイクに怒りをぶつけていた。先のベントでの放射能の飛散で、30km圏近くで自殺した有機農業の生産者がいた。ぼくも10年以上細々と有機農業をやっていたけれど、土づくりが命だ。その土に放射能が降って来てしまった絶望は、どれほどだっただろう。
 風評被害の延長上に、福島出身であることを理由(障害者の孫は見たくない)に、婚約が破棄される事態も十分に想像できる。人の差別心は、決して無くならない。
 20km圏内のニュース映像では、街は全く無事で、お日様もいつものとおりに照っているのに、人っ子ひとり映っていない。これを時間の止まった「ゴーストタウン」と言うのだろうか。
 救いはないのだが、こういうときに中島みゆきの歌を聞きたくなる。うつっぽいときには安易な励ましより、おちついた曲がいい。

 さてニュースで「汚染され作付けできない土地に、バイオマス発電用のひまわり、ナタネを植えてはどうだろう?」という記事があった。ぼくも「汚染された土地を太陽電池や風力発電の一大基地にしては?」と思っていた。フクシマが、クリーンエネルギーの拠点として再生するなら、とても望ましいと思う。長くデフレ不況が続いて来たけれど、これからは作ったものがどんどん売れて行く、インフレ基調になるのかもしれない。戦後の焼け野原からの復興である。
 ニュースでは原発推進を掲げた石原氏が都知事に当選し、原発を推進して来た自民党が全国的に勝利した。これだけの大厄災にもかかわらず、ドイツのように緑の党が大躍進しクリーンエネルギーへの転換するような変化は起こらず、日本人は日常的に放射能に慣れることを覚え、これからも粛々と原発が新設されて行くのかもしれない。


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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