ホントウのものとニセモノpart1
ふーさんとぼく(ばび)は「寒いから体をあっためよう」とばかりに、いつもの居酒屋「へそのごま」へ、くり出して飲んでいる。
店内はわいわいと活気があって、ぼくたちも酒とあてが運ばれてくるのを待ちながら、たばこを吸っている。暖房の効いた店内ではAKBの音楽が流れ、顔を突き合わせ、お互いのけむりの匂いを吸い合っている。
店員のお兄ちゃん「ご注文の浪花正宗の熱燗と黒霧島のお湯割りです!」
ばび「キター! いい酒を頼みましたね」
ふーさん「そうなんじゃ、ふわっとフルーツの香りがして、旨いんじゃよ」
ばび「黒霧島も甘いんですが、九州で広く飲まれているそうです。それじゃかんぱーい!」
ふーさん「かんぱーい。しかし不況に突入して長いな!? 店の売り上げもさっぱりじゃ」
ばび「全くです。ニューヨークにあるリーマンブラザースという銀行の倒産が、世界規模の不況の幕開けだったなんて、どこのリーマンが予想したでしょう?」
ふーさん「あっはっは」
ばび「ところで数学の世界にはリーマン予想というのがあるって聞いたことありますか?」
ふーさん「いや、全くダメじゃ。お勉強は。全くしなかったからな」
ばび「素数って知っていますか?」
ふーさん「いや、何か数学でやっていたかもしれんが、ばびさんは優等生だったのじゃな。わしゃ不良じゃったから」
ばび「心の傷から反抗していたのですね。ところで素数というのは、1と自分自身以外で割れない数なんですが。1、3、5、7、11、13、17と無限に続いていくのですが、現れ方に規則性が見当たらないのです。ところがこれに特別な意味や調和を見いだして、現れ方の背後に規則性があるというのが『リーマン予想』なんです。BSの番組の受け売りなんですが」
ふーさん「それがどうなのじゃ?」
ばび「現在のクレジットカード番号などの通信は暗号化されて行われているのは、ふーさんもネットやっているからご存知だと思うのですが、この暗号化の基になっているのが、15桁もの素数なんです。現れ方に規則性がないので、コンピュータでも計算不可能といわれているのです。ところがリーマン予想が証明され、背後の規則性が分かってしまうと、コンピュータで計算可能になってしまうのです」
ふーさん「ということは、暗号が破られるということか。」
ばび「現在の素数を元に暗号化したIT社会のセキュリティーが崩壊する可能性があるのです。しかし一方ではリーマン予想が証明されてもコンピュータで一つの場合を計算するのに1TBに近いメモリが必要だから、新しい理論でもできない限り、暗号を破ることは不可能ではないのか、という意見もあります」
ふーさん「ほう、そうなんだ」
ばび「じつはジョンナッシュというノーベル賞をもらった数学者がいるのですが、リーマン予想を証明しようと取り組んで、統合失調症になってしまうのです。『ビューティフルマインド』というヒットした映画で描かれているので、機会があれば、ふーさんもDVDレンタルしてみてください。電話帳の番号などに取り組んで背後の規則を見いだそうと集中していって、妄想の世界にどんどんと入って行く様子や恐怖が生々しく描かれていて、「統合失調症ってこういう世界なんだ」っていうことがよく分かります。」
ふーさん「ほうほう、それで病歴のあるばびさんはリーマン予測に余計興味があるんだな」
ばび「しかもリーマン予想が解かれれば、宇宙を司るすべての物理法則が自ずと明らかになるかもしれないといわれている、と番組で言っていました。実際に、原爆や半導体の基礎である量子力学という未だ新しい分野での、リーマン予想との奇跡のような一致があるそうです」
ふーさん「ずいぶんと難しいお話だな。でも面白いな」
ばび「科学者たちは正しいことを追い求めているのですが、次々に発見され証明され、それまで本当のことだとされたことの、より深いところにはより正しいことが発見され証明されます。さらに深いところにはきっと、もっと正しいことがあるのでしょう。そうした天才たちの努力は、いつかは宇宙の真理に到達するのでしょうか? 神様と言ってもいいと思うのだけれど、科学者は神様の存在を証明できるのだろうか?」
ふーさん「しかしずいぶんすごい話題になってしまったな」
(part2へ続く)
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