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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

タイガーマスク運動

 本来であれば「ナマズの精part3」を掲載する予定なのですが、今話題のタイガーマスク運動についてちょっと。

 全国で広がっている、児童相談所や児童養護施設にランドセルや現金、プレゼントを贈る「タイガーマスク運動」に感動された方も多いのではないだろうか。

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 連鎖といえば、虐待の連鎖など、よくない場面で使われことが多い言葉だが、善意の連鎖として全国に広がっている。4月までにまだ多くの場所でランドセルなどが贈られてほしいものだと思う。
 
 ケチをつけるわけではないけれど、小学生のランドセルは児童養護施設では、すでに予算に組み込まれていることだろうと思う。年末に「葦牙」という映画の上映を手伝って(このブログの2010年11月11日と12月16日の分でとり上げた)知ったことだが、高校を卒業する18歳で普通、児童養護施設を退所するのだが、社会に出てから自立するまでのサポートが何もない。不登校になった子どもは、18歳未満であっても退所せざるを得ないことも多く、その場合は自立援助ホームが受け皿となるが、少なくとも愛媛には自立援助ホームはひとつもない。
 「葦牙」の上映を手伝ったのは、愛媛での自立援助ホームの設立にもつなげたいという思いもあったからだ。
 
 さて、小学生に贈り物をするほうが、18歳の子どもに贈るよりも、伊達直人側としても満足度が高いような気もする。しかし、タイガーマスク運動もこの辺に気がついて、たとえば、施設から退所する子どもにスーツのお仕立券を贈る、というような運動につながれば、もっと素晴らしいと思う。
 
 ムゲンでも児童養護施設の出身者がいるけれど、毎年正月にはふるさとである児童養護施設に戻って、後輩たちにお年玉をあげているようだ。
 児童ではないけれど、毎年年末に山谷、釜ヶ崎、寿などの寄せ場で、ひとりの凍死者も出さないように、支援者が夜回りや炊き出しなどの越冬闘争をするのだが、ぼくもカンパをかれこれ10年以上前から送り続けている。
 年越し派遣村よりずっと昔だ。派遣村といえば、昨年東京都は一切お金を出さなかったそうだが、世知辛いことだ。
 
 善意も継続することが大切だと思う。ぼくのカンパも当てにされているのかもしれないけれど、懐の厳しい年の年末には減額して送ったこともある。タイガーマスク運動も1年限りの花火に終わらず定着してくれることを願っている。
 
 寄せ場はいまも警察、暴力団、労働者が三つどもえの戦いをしている厳しい現場だ。山谷の記録映画を撮っていた映画監督が2人も暴力団によって殺されている。毎年年末になると、寄せ場のことを思い出す。

 最近厚生労働省から児童養護施設の職員定数を増やすというニュースが流れた。タイガーマスク運動によって、児童養護施設が注目された成果だろう。
 ほかにも食事に寄付額を上乗せして払う料理店やホテルの食事とか、バレンタインのチョコレートに寄付額を上乗せするとか、スーパーやコンビニ、企業やスポーツチームや携帯を使った寄付や、様々な人たちの取り組みも活発化してきている。ようやく日本でも寄付の文化が育ちつつあるのを感じる。


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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