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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

ナマズの精part2

(登場人物の詳細は、2010年9月のブログを参照してください)

 クリスちゃん「いいですね〜、ナマズさん。私は悩みが次々に湧いてきます。中学時代に私は普通にしゃべっていたのに、『不思議ちゃん』とか言われたり、なんか友達いなくなっちゃって、学校行く気が失せちゃったんです。空気読むのが苦手で当時はよく分からなかったのですが、今から考えれば『シカトされていたのかもしれないなあ』って思いますけれど」
 ナマズの精「君はちっとも悪くないぞ、間違っちゃいないぞ。オッケー牧場じゃ」

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 クリスちゃん「あはは、ふる~っ! じつは当時バレー部でかっこいい女の子を好きになっちゃって、相手に伝わったら冷たくされて……。こころが折れそうになってしまったことも、学校へ行かなくなった理由の一つです。かげで「へんたい」とも言われていたらしくて、傷つきもました。さびしく損ばかりして、生きてきたような過去だと思います。何かナマズさんの前では安心感がありますよ。悩んでいたときには誰にもしゃべれなかったことでも、何でもペラペラしゃべれちゃいます」
 ナマズの精「苦労したんじゃなぁ。そこまで損な生き方をして、得をしよう、楽をしようと考えなかったのかな?」

 クリスちゃん「だって、ずるい気がするじゃないですか。仕事も人生も真面目にしないと。それに怠け者だって思われたくもないし、自分に自信だってないし」
 ナマズの精「それで辛くはないか?」
 クリスちゃん「これで今は当たり前と思っているし。ヒッキーだったから、人より人生も仕事も相当遅れてしまった感の、焦りもあります」
 ナマズの精「焦るとろくなことはない。もっと楽をしてみてはどうじゃ?」

 クリスちゃん「もともとが、私はヒッキーの頃に『自分はダメ人間だ』と思っていましたから、頑張って鍛えないといけないと思うのです」
 ナマズの精「鍛えたらどうなるのじゃ?」
 クリスちゃん「強くなれるように思うのです」
 ナマズの精「強くなってどうするのじゃ?」
 クリスちゃん「自分は弱虫だというコンプレックスがあるから、超強くなりたいのですよ。はじめて人を好きになったのが女性だったこともコンプレックスだし~」
 ナマズの精「じゃ、どこまで強くなったら満足なのじゃ? コンプレックスあるままじゃいけないのか? 今のままじゃいけないのか?」
 クリスちゃん「えっ。今のままでいい!? 考えたこともなかったです。たしかにそう考えるととっても気は楽ですが……」
 ナマズの精「そうじゃ、楽をすることはいいじゃろう。どちらにしようか迷ったときには自分が楽になる方に決めるのじゃ」
 クリスちゃん「楽をしていいのですか? そう思うとなんかとても晴れやかです。でも、同級生からは遅れたままです。コンプレックスもそのまんまです」
 ナマズの精「なぁに、人生は長い。どこでどうなるかは神のみぞ知るじゃよ」
                           (part3へ続く)


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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