ナマズの精part3
クリスちゃん「ナマズの精って神様のメイドか執事のようなものですか?」
ナマズの精「今は仮の姿じゃが、体が死ねば、神様の元に召される。神様の世界で精の命は永遠じゃ」
クリスちゃん「精力絶倫の精ですね」
ナマズの精「こらっ! 若い女の子が言う言葉じゃない」
クリスちゃん「耳年増なんですぅ」
ナマズの精「さて、同級生などとだれもが比較しがちだが、実はバカバカしいことじゃ。先を行く人ばかり見ていないで、今のままもっとわがままになったらどうじゃ?」
クリスちゃん「えっ、わがままって悪いことじゃないですか。周りからもずっとわがままを克服するように言われてきたし」
ナマズの精「わしのように腹が減れば食べる。眠たくなったら寝る。休みたいときに休む。ワニが来たら逃げる。これが自然に沿った生き方じゃ」
クリスちゃん「でも世間はそれを許さないと思うのですが」
ナマズの精「許されないと生きていては、いけないのか? 世間とはいったい誰のことじゃな? 名前を挙げてみよ」
クリスちゃん「えぇと、えぇと、えぇと……。誰でしょう?」
ナマズの精「実は今まで多くの人から言われて、内面化されている自分自身の声じゃないのか?」
クリスちゃん「はっ、な〜るほど。自分自身の声ですか」
ナマズの精「自分で自分を厳しく縛っているのじゃないかな? いい子でいたいとか、人から嫌われたくないとか、多数の人の中にいたいとか。なぁに、そんな自分に気がついたら、開き直ってしまえばいいのじゃよ。今まで我慢しすぎてきたから、うんとわがままに振る舞ったくらいでちょうどいいのじゃ。頑張る必要などはないのじゃ。今までどおりの真面目でもいいけれど、ある程度はいいかげんな部分も、まわりに出してみたらどうじゃろう? 弱さを見せることは、決して恥ずかしいことじゃない。かえって人との絆が深まったりすることもあるのじゃ」
クリスちゃん「何かとっても楽です。まるでこころのマッサージを受けたようです」
ナマズの精「わしも長い間水槽の奥から、人間どもを観察しておったのじゃ。なあにちょっとした退屈しのぎじゃよ。おっと、もうこんな時間か。もうすぐ地震が起きるから、わしは水底でじっとしていることにしようかな。ギギッ。ギギッ」
クリスちゃん「あっ、鳴いたっ! ナマズが地震の予知ができるって本当なんですか?」
ナマズの精「……。それじゃ、グッドラック!」
そのときぐらっと地面が揺れた。クリスちゃんはあわてて、すぐ側の鉄の柱につかまった。そしてクリスちゃんはゆっくり目を開いた。
クリスちゃん「あっ、寝ていたんだ! いつの間に私居眠りをしていたんだろう?」
クリスちゃんは寝ぼけまなこでボーッとした頭で瞬きをしながら、水槽の水底でじっとこっちを見ているジャウーの小さな目と目が合った。
やがてジャウーは、大きく体を揺らせてのたのたと奥に泳いで行った。
「今の地震は、現実にあったことなのかなあ? 初夢なのかなあ?」とつぶやいたクリスちゃんは『ああ〜っ』とあくびをして、両手を上げて大きく伸びをした。
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