ナマズの精part1
(登場人物などの詳細は、2010年9月のブログを参照してください)
クリスちゃんは、正月も明け、一人で熱帯魚店マットグロッソの店番をしていた。
「みなさま、明けましておめでとうございます。って、いったい誰に向かって挨拶してるんだ!」と一応自己突っ込み。
さて目の前の水槽では、口ひげのうんと長いジャウーという黒いずんぐりとして平べったくてでかいナマズが、めんどくさそうに体をくねらせて、ゆっくりと行ったり来たりして泳いでいた。ときどき口を思いきり開けてあくびをしたりするが、小さな目がとてもかわいらしい。悠然と泳ぐグリーンアロワナと並んで、ジャウーはこの店の主だ。お腹がすいているのか、時々水面で口を開けて、クリスちゃんに餌をねだっているようだった。
暇を持て余していたクリスちゃんは、餌にする小さな金魚を入れてやった。金魚を餌にするのに、最初は抵抗があったが、「これが大自然の掟だ」と思うと、身が引き締まる思いで自分を納得させた。ゆっくりと近づいて行って、金魚をパクっと丸呑みにしたジャウーは「ありがとう」と言った。たしかに聞こえたのだ。「ありがとう」と。
クリスちゃんはジャウーの水槽のすぐ前の椅子に座ったまま、幻聴などではないことをはっきりとした意識で確認した。
クリスちゃん「えっ?」
ナマズの精「わしはナマズの精じゃ」
クリスちゃん「えっ? しゃべり方が若干ふーさんにも似ているけれど」
ナマズの精「そうか。でも毎日よく働いておるな」
クリスちゃん「あっ、はい」
ナマズの精「そんなに真面目に一生懸命働いておると、疲れるじゃろう」
クリスちゃん「ええ、でも仕事にはこだわりがあって。完璧に仕上げないと気持ち悪くて。よく気が散るので、今でもお店の役に立っているのか自信が持てなくて」
ナマズの精「そんなに一生懸命で、何か得なのか?」
クリスちゃん「えっ、そんなこと考えたことないです」
ナマズの精「わしはアマゾン川で腹が減ったら食い、気持ちよくなったらじっと休み、眠くなったら寝て、何を悩むこともなく暮らしてきた。まあ夜行性だから人とは夜昼が逆じゃがの。夜に活動して他の魚たちの寝込みを襲い、パクリとやるのじゃ」
(part2に続く)
※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。