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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

福祉的就労の「労働者」(part3)

 さて、ムゲンはこの4月に就労継続支援B型になって、職員も5名に増えた。最低賃金(最賃)は守っていないが、例えば織り機のやりすぎで背中が痛くなれば、整骨院に行ってもらったりしている。
 ムゲンは、働く場である前に「居場所」だから、テレビを見て休んだり、おしゃべりしたり、お昼寝をしたり、自由だ。そういうこともあって、最賃は守れない。仕方ないことだ。だから逆に、あまり働けない重度の人を拒むこともない。この重度の人を切り捨てないということは、ムゲンの21年間の歴史でずっとやってきたことで、生命線でもある。だから、重度の人をいとも簡単に切り捨てて働ける人だけを選別して最賃を守る就労継続支援A型などに、ムゲンが移行することはない。

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 障害者雇用率というのが法律で決められている。会社の規模によって課せられるかどうかが決まるが、課せられる民間企業の法定雇用率は1.8%(2006年に新しく法定雇用率に精神障害も加わったので、この数字も本来なら上げられてもおかしくないはずなのだが)となっている。しかし日本では、この1.8%がまったく守られていない。罰則金を払ったほうが障害者を雇用するより楽だ、という考えからだ。ヨーロッパなどでは障害者雇用率は5、6%が当たり前になっている。
 韓国は障害者雇用率が日本より低いが、自殺率についても、去年にそれまで先進国中1位だった日本を抜いて韓国がトップになった。ここで、「障害者雇用率の低い先進国では国民の自殺率が高い」という、ぼくの仮説を提示しておきたい。障害者の住みやすい国は国民全体が住みやすく、自殺率も低いのだと思う。
 
 ムゲンでは最賃に近づけるため、職員である波津子が、製品の販売に、バザーや委託販売へと飛び回っている。休日返上なので、いつも「疲れた」が口癖だ。しばしば倒れて寝込む。給料は確実に上がってきているが、職員の個人的努力による給料確保には自ずから限界があるだろう。「工賃倍増5カ年計画」なる運動を行政主導で行って、達成施設に援助金をつけているけれど、もちろんメンバーを叱咤激励するわけにもいかない。
 そこで、滋賀県や蓑面市ですでに行われている賃金補填を紹介したい。給料を最賃まで引き上げるために、賃金を税金から補填するという考えである。もちろん、障害年金をもらっている人ともらっていない人では補填額に違いが出る。障害年金は月に6万6千円程度だから、わずかな額を補填すればよいことになる。障害年金をもらっていない人は補填額が大きくなる。これなら、障害者でも働く喜びが得られる。重大なメリットは、「重度の人も切り捨てない」ということだ。すべての働きたい障害者に働く権利が与えられるのだ。
 最賃の守られない「福祉的就労」と最賃を守る「一般就労」に対して、滋賀県や蓑面市では、賃金補填をする働き方を「社会的就労」と呼んでいる。この障害者に対する賃金補填が、一刻も早く全国規模になることを願っている。しかし社会的就労自体が、在宅の障害者を掘り起こして労働につなげ、ヘルパーにかかる予算を削減することを目標にしている部分もあるので、今ある施設で福祉的労働をしているメンバーは取り残される可能性もある。ここは声をあげていかないといけない。


コメント


こんばんわ
移行おめでとうござます。
よかったですね。

工賃は文化的な活動に時間を割けば、工賃はおのずと下がるでしょうし、かといって作業?にばかり時間を割いて工賃アップもつらいですね。作業所には本来、仕事とは別にある程度の居場所としての機能も持たせなくてはならないでしょうし。

今後の活動を楽しみにしています。


投稿者: hiromi.s | 2010年11月21日 19:50

励まし、ありがとうございます。
その時々のメンバーの希望によって、美味しいものを食べに行ったり、カラオケに行ったりもするし、金稼ぎたい、というメンバーが多くなれば、外の最賃とれる仕事を入れたり、右に左にバランスが難しいです。
でも基本は各人が抱える「孤独」の問題だと思うので、やっぱり居場所は大切ですね。


投稿者: 佐野 | 2010年11月22日 19:24

 はじめまして。私は11月に約40年の企業生活を終え、ある精神障害者施設で準職員として働き始めました。施設利用者と職員の複眼を持った佐野さんのコメントの中から、職員としてのあるべき姿を見つけようと、全ブログを読ませて頂き、たいへん勉強になりました。これからも指針にさせて頂きます。


投稿者: 水野亮太郎 | 2010年11月23日 21:55

amiという精神障害者の作業所の雑誌に「差別化をはかる」という記事が載っていました。
(不登校、就労支援、高齢化させずに年齢制限を設けたりetc…)
私達に必要なのは居場所だ。という当事者の立場からの佐野さんの発言には「重み」と「ちから」があると思います。

これからも提言していって下さい。
応援しています。


投稿者: Live | 2010年11月24日 15:22

ずいぶんやる気があるのですね。まあ肩の力を抜いて、リラックスしてください。また書き込んでください。


投稿者: 佐野 | 2010年11月24日 21:19

Liveさん、ありがとうございます。ムゲンも媛amiに入っています。


投稿者: 佐野 | 2010年11月26日 21:34

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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