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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

子どもは母親のもの(part2)

(前回のブログより続く)
 ぼくとふーさんは、飲み干した珈琲牛乳のビンを箱に返して、長椅子に座った。
 「父性愛だってそうですよ。娘が嫁に行くときに、さめざめと泣いたりする。これだって、自分のものだったはずの娘が突然他人のものになっちゃう。その現実に耐えられなくて泣くのでしょう。独占欲ですよ」
 ふーさん「そうかもしれん」

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 「世間の人は、娘を性虐待するのは、どこかの変態やレイプ魔と思い込んでいますが、実は8、9割が父親か兄です。父や兄が、愛情による独占欲で娘や妹は自分のものだと思っているから、家庭内で密やかに淫靡な性虐待が起きるのですよ」
 ふーさん「うちの娘はひとりじゃが、親がこんなにいい加減な性格なのを見て育ったせいか、いたって真面目じゃな」
 「反面教師ですね!」
 ふーさん「おいしそうなべっぴんさんに育ちおって!」
 「あははは」
 ふーさん「娘は歯科衛生士をしているけれど。父親がこういい加減だと独占欲も少ないかもしれないな。愛情もある程度バランスなのかもしれん」
 「人を愛することは、時に孤独と諦めを伴うものですね。これがわかっていない独占欲や所有欲の強い、未熟な親が多いということかもしれません」
 ふーさん「人との一体化を求める愛情が、実は時に孤独なものだとは皮肉なものじゃな」

 「でも、この大阪の虐待死事件の背景には、周囲の『子育ては母親の義務だ』という無言の圧力もあったでしょうね。母親がその圧力を内面化してしまい、子どもは1人で育てるべきだと思いこんでいて、限界を超えても周りにSOSを出せなかったのかもしれないです。何らかのサポートの手が社会の側にあれば、防げたのではないかと…」
 ふーさん「そうやな。保育所も不足していて、待機児童もものすごい数らしいな」
 「ここのところの虐待による子どもの受難は、母親を孤立させている社会の責任でもあると思います。シングルマザーの自助グループや行政主催のグループとかも、もっともっと増えてもいいのですけれど。あと育休をとる男性は本当に珍しくて、『育休をとると出世に響く』なんてことも聞きます」
 ふーさん「この事件では、通報を受けて児童相談所の職員が訪ねたけれど、誰が住んでいるのかわからず、立ち入らなかったらしいぞ」
 「行政の仕事も大事かもしれないけれど、近所の助け合いみたいなもの。普段のお付き合いもないし、顔さえ知らないことも多いから。男性は会社にばかりいて、家にいないですし。みんな周りに無関心ですよね」
 ふーさん「でもみんな世間体には結構気を遣っているようじゃがな。わしは世間体なぞ、どうでもいいがな」
 「外側を整えて、中で何が行われているのかわからない家庭って、本当によくないです。ひきこもりでもそうですが、家庭に他人の目を入れないといけないです」

 その頃、元ひきこもりのクリスちゃんは、自宅の自分の部屋で風呂から上がって、下着姿のまま、ベッドでオヤジのように缶ビールを飲んでいた。テレビでちょうど「大阪二児放置死」をやっていたが、突然「へーくしょん! ずるずるずる。誰か噂したのかな?」。


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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