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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

子ども虐待について(part3)

 日本では、性的虐待の報告例が欧米より圧倒的に少ないことが指摘されているけれど、『子ども虐待という第四の発達障害』(学研)という本の著者である杉山登志郎氏は、「数年以内で我が国でも性的虐待は社会的に噴出するのではないか」と予言している。

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 日本では統計上、欧米に比べて、子どもの死亡原因として「家庭内の事故」が異常に多い(注)そうだが、これも日本の隠蔽体質からだろう。今後、虐待が原因である解離性障害や複雑性PTSDの診断もぐんと増えることだろう。醜形恐怖症や摂食障害も、そのままの自分を愛してほしい気持ちが極度に強い、虐待などによる愛情飢餓と関係が深いだろう。
 「私は不幸の星のもとに生まれてしまったの」というような女性は、虐待を受けて育ったために自己評価が低く、人間関係や男性関係でも子ども時代に学んだ人間関係を繰り返して、「やっぱり人は自分を攻撃するんだ」と思い込んでしまうのかもしれない。
 ぼくが20代のときに入院中、よくしゃべっていた閉鎖病棟に入っていた厚化粧の色っぽい女性が時々見せた怯えた表情は、「もしかしたら性的虐待の被害によるものだったのかなあ」と思い出す。彼女は突然調子を崩して人を寄せ付けなかったこともあったけれど、それはフラッシュバックだったのかもしれない。統合失調症の人はPTSDを癒すと聞いたことがあるが、そのためぼくとよくしゃべっていたのかもしれない。

 虐待対策が日本よりずっと進んでいるカナダでは、娘を(性)虐待した父親の妻の80%は父親(夫)を追い出したりしないそうだ。虐待された娘のほうを捨てるのだという。現実に家庭を維持するには、そういうこともありえるのかもしれない。
 子どもも、(性)虐待した父親より、助けてくれなかった母親をより憎むらしい。母親への愛着度が高いからだろう。母親は夫の(性)虐待によって、家庭の希望や夢をすべて失い悲嘆にくれる。でもそこから回復プロセスに入るらしい。
 ともかく、親が「しつけ」と信じて疑わないことが実は「虐待」であり、親が果たすべきは、家庭が何より子どもの安全基地となるようにすることだろう。虐待とは、字の似ている「虐殺」などの非日常的イメージからほど遠い、ごく平凡で日常的な子どもとの関係の乱用だからである。極端かもしれないけれど、「子どもにしつけをしてはいけない」と思う。しつけていると、言うことを聞かない子どもに親が感情的になるからだ。
 いや、「しつけをしたほうがいい」ということを受け入れるとすれば、親はバランスの取れた大人である必要がある。そして大人は十分安心できる幼児時代を、子どもらしく送ってきた必要がある。そうでない人はしつけなどできないだろうと思う。でないと、自分が子ども時代に受けた「しつけ」の再現、トラウマに対する復讐をやってのけてしまうかもしれない。
 今の日本では、普通に子育てのできない人が急速に増えつつあるのかもしれないし、子どもが無邪気にバカをやっていられないで、子どもが真剣に大人の心配をしてやらないといけないほど、周りの子どもを蝕んでいるように思う。先進国では共通の問題なのかもしれない。しかし先進国は被害をオープンにして、社会的な手当てが進んでいる。日本もまた早く先進国の仲間入りをしたいものだ。
 しかし、虐待を受けた人の現実に対する対応は、「怒りを小出しにする」ことだと思う。溜め込んで、言いやすい人だけに集中しないほうが生きやすいと思う。

(注)平成15年12月から17年12月末までに、123人の子どもが虐待で亡くなっている。これには、家具の角に頭をぶつけて亡くなったとか、風呂で転んで亡くなったとかはもちろん入っていない。でも、日本の子どもの死亡理由では、諸外国に比べて「事故死」が異常に多いということが報告されている。


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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