アスペルガーさん(part3)
家庭内の暴言暴力が問題になることもある。母親がアスペルガーさんの子どもに「ご飯よ!」と呼んでも、これは母親の「発表」であって、「食卓に来なさい」という意味に本人は取れない。母親が部屋に行きドアを開けて「聞こえなかった!?」と言った途端、聴覚過敏のアスペルガーさんはパニックになって「うるさい!」と怒鳴ったりする。そんなやりとりがいつも続くと、母親のほうが先に「抑うつ」になったりすることもあるそうだ。「30分後にご飯ができるから、台所で一緒に食べよう。30分後でいい?」。これが模範解答だ。会話に抽象的なものがない。
次にあげるのは、『パスポートは特性理解』(クリエイツかもがわ)に紹介されている事例である。
ある日の夕食が終わり、台所でお母さんが水を流しながら食器を洗っていたときのことです。何の予告もなく、後ろの食卓から湯のみが飛んできて、お母さんの耳に当たり、軽いケガをされました。その青年が投げたのでした。お母さんは「なぜ!?」とショックを受けノンラベルに相談にお見えになりました。じつは「流しの水の音」と「食器のカチャカチャする音」が不快で「音」を止めたいという思いがつのり、たまたま手元にあった湯のみを「音」のする方向に投げたのでした。本人さんが物を投げたり、物を壊したり、暴言を吐いたり、暴力をふるったりすると、原因は親に対しての「うらみつらみ」とお母さんが受け取るのは無理もありません。お母さんは定型発達者的思考パターンで、暴力や暴言の原因を探ると、分からないことが多いようです。
夫のDVと思われたことが原因で別居し、息子さんのことでノンラベルに相談にお見えになった方がありました。息子さんの成育歴をお聞きするなかで「ご主人のほうがもっとアスペルガー」が明確になりました。「えっ?」と驚いた奥さんでしたが、数ヶ月後、ご主人といっしょに来所されました。「だって、お父さんは植木鉢は投げる、カーテンは引き破る、大声は出す。なぜ私にそんなことするの。「私が何か悪いことしたの?」としか考え考えられなかったから家を出ました」「違うよ。大事にしている植木鉢の位置を勝手に変えただろう。位置には決まりがあるんだ。その位置が変わっていると、すべてが変わっていることになるんだ。そうすると、すごくイライラが起きて抑え切れなくなり、手に持っていた植木鉢を庭に叩き付けただけで、君に向かって投げたんじゃない」。
アスペルガーさんは、聞かれないと言わないことが多いので、周りが冷静になってコミュニケーションをとることが大切かもしれない。
ぼくが以前に書いたブログ「いっしょにいてもひとり」(平成21年12月17日分)にあるモラハラ夫のこともあわせて読んでみてほしい。
依存症の世界にもアスペルガーさんはいる。酔って暴力的になる夫も、パチンコをはじめると止まらなくなる人も、アスペルガーの可能性は大いにあるだろう。依存症からの回復を目指した「12ステップ」という有名な振り返りがあるが、GA(ギャンブル依存症の自助グループ)の現場などで、抽象的な内容の多い12ステップにまったく興味を示さず、グループから離れていってしまう発達障害の人がいることが問題化しているとも聞く。「12ステップ」については、検索するといろいろと出てくるので、見てみてほしい。
あと、2001年に起きた浅草女子短大生殺人事件。マスコミによってアスペルガーさんが犯罪者として一躍有名になった。全所持金600円のうち200円で包丁を買って、女性の前でちらつかせた。「友達になりたかった」から。そうして一人の女性を殺してしまった。決してアスペルガーさんが犯罪に近しいという偏見が定着しないためにも、『自閉症裁判―レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』(佐藤幹夫著、朝日文庫)という本で詳しい経過をぜひ読んでみてほしい。
身近な人の暴力などで困っている人も、アスペルガー障害である可能性があるならば、一度ノンラベルのような専門機関に相談してみてはどうだろう。対応の方法を学ぶことによって、関係が改善することもあるかもしれない。
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