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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

麻薬脱出(part3)

 今週も『麻薬脱出―250万依存者の生と死の闘い』(軍司貞則著、小学館)を読んで思ったことを書いてみる。今回が最後だ。

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 ロイ神父は、回復の12ステップのステップ1についてこう言う。「私は神父として指導しているのではありません。人間としてです。ただのアルコール依存者の仲間です。アル中である自分の弱さや無力さを知ることから始まるんです」。
 近藤も、ダルクの壁に12ステップを大書きして貼っていた。近藤は「ステップ2まで来たときに、気持ちが楽になった」という。12ステップの内容についてはネットなどでも検索できるので、見てみてほしい。

 まず、ステップ1を受け入れるのに、ずいぶんな時間がかかるようだ。そりゃそうだろう。「自分の恥を全部さらせ」ということだから。ぼくも自分の半生をさらけ出して本にできたのは、わずか5年前のことだ。ましてや、見栄や突っ張りで生きる人が多い薬物依存の人たちのことだ。なかなかできることじゃない。でも、自分の弱さと無力さを認めたときに、強く生まれ変われるのかもしれない。
 さらに、ステップ1で学んで無力なのは重々わかっていても、クリーンが続いていくとつい忘れてしまいがちなようだ。再発しないためにも、何度も「無力」に立ち返らないと、人はすぐに慢心してしまうのだろう。
 近藤は言う。ステップ1は「足」を使ってミーティングに行く。ステップ2は回復途上の人たちの声を聞く「耳」。自分の過去を正直に毎日話す「口」。それで気持ちが落ち着いてくる。そのうち、それは薬物依存の問題をミーティンググループや自分自身を超えた不思議な力に委ねることではないかと思えてきた。それがハイヤーパワー。ステップ3までがしっかりとできていないと次へ進めない。ダルクの基礎はこの3つだ、と言い切る。

 ギャンブル依存症の人が持っている12ステップの本を見せてもらったことがあるけれど、ページはしわしわ、傍線は一字一句にびっしりとくまなく引かれ、そのお勉強ぶりにびっくりしたことがある。それはまるで、聖書の勉強をしているキリスト者のようだと思った。
 あるとき岩井は、近藤に連れられて、県警本部の偉いさんが来賓として来ている講演会に出た。覚悟を決めて飾ることなく自分の過去を全部しゃべったら、場内からものすごい勢いで拍手が起こった。岩井は「オレの話が他人の役にたつのか」と不思議な気持ちがした。1週間後、岩井を名指しで300件もの講演依頼がきた。

 この本が発行された2001年までに約1000人がダルクの門をくぐり、入寮してからスリップをしなかったのはたった2人だが、スリップを繰り返しながらもクリーンを続けている人間は350人いるという。
 茨城ダルクは社会福祉法人を目指し、過去を問われて就職できない人や回復に時間がかかる人たちのために、ダルクと社会の橋渡しをする中間施設を作ろうとしたけれど、地元の反対運動で白紙になってしまった。統合失調症者と同じだ。松山でも通所施設を作るときに、地元の反対運動で揺れに揺れたが、理不尽な地元の要求(自転車で通勤してはいけない、バスによる送り迎えをしなくてはいけないなど。精神障害者の顔を見たくない!)を建設する市側が飲んで、やっとオープンにこぎつけた。
 本書の著者も、当事者と家族のプライバシーには特に気をつけたと語っている。この差別の激しさは、統合失調症者とまったく同じだ。

 さらに、家族会の活動も大事だ。家族が結果的に依存者を助けている場合が多いからだ。この本に出てくる、息子がシンナー中毒の両親は、一代で築き上げた自動車修理会社をつぶした。息子にたかられないようにするためだ。両親は細々として生きているが、カラオケを歌ったりする自由を手に入れている。
 最近の朝日新聞(2010年3月18日付)に鳥取ダルクの記事が出ていたが、行政援助がなく資金繰りは大変なようだ。入寮費は15万円だが、月額9万5000円の生活保護では払うのに足らない。入寮しているのは18人だが、そのうち15万円を払えるのは8人しかいない。2人は生活保護すら受けられずに無料にせざるを得ない。2008年度は200万円の寄付でまかなったという。寄付者にはニュースレターを送っている。
 この重要なダルクに、行政も入り口で「薬物はいけません」と言うばかりではなく、出口の依存者の回復に向けて早く取り組み、援助をつけてほしいものだ。


コメント


 たばこのヘビースモーカーもニコチン中毒と効きます。タバコは身体に悪いというだけではやめられないと思うし、治療も必要になると思います。
 でも、その前に、それに頼らなくてはならない生活背景も存在していることにも目を向けないといけないと感じます。でも、私の兄もヘビースモーカーですが何も言うことが出来ないのが現実です。
 そういう私も、精神障害のことに夢中になることで、逆に主人の障害とうまく折り合えている自分がいて、結局私も依存症なのかな?・・・


投稿者: たんぽぽ | 2010年04月23日 22:08

 人間関係で、お世話したりすることに生き甲斐を見いだすのを共依存というようです。
 ぼくもニコチン依存ですね。止められないです。ガンになったら考えるかも。


投稿者: ばびっち佐野 | 2010年04月26日 20:42

 お返事、ありがとうございます。うちの兄も、タバコすってても、「長生きするやつはする」と人事のようです。
 それに、ばついちの兄にとって、「子どもが大きくなるまで生きていられればそれでいいし、働いて入れればいいんだ」と、結構、人生に対しても荒っぽい考え方です。そういう兄も、タバコだけでなく、仕事にも依存しているのかな・・・人間って、複雑な生き物です。


投稿者: たんぽぽ | 2010年05月04日 22:23

 愛し愛される人がいれば、またお兄さんの生き方も変わるのかもしれませんが、男は破滅的な考えにとらわれる時期もあります。


投稿者: ばびっち佐野 | 2010年05月12日 23:49

そういう人が現れることを願うしかありませんね。ありがとうございます。


投稿者: たんぽぽ | 2010年05月19日 15:26

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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