アスペルガーさん(part1)
『パスポートは特性理解』(NPO法人ノンラベル・田井みゆき著、クリエイツかもがわ)という本を読んだ。青年・成人期のアスペルガー障害・特定不能の広範性発達障害についての本だ。活字も大きく、読みやすい言葉で書かれた、とてもわかりやすい本だ。
著者は家族からの相談と本人との面談数はおそらく日本一と語っていて、「5分間本人とお話しをすれば、その方に発達の偏りがあるか、定型者範疇なのか判断できるようになった」と語っている。
発達障害圏の人たちは、基本的に「1人が快適」な人たちだ。孤独に強くならざるを得なかった性格傾向があるのだろう。もちろん孤独に強いといったって、限度がある。1人の理解者もいなければ、当然寂しい。
人から長く「空気の読めない不思議ちゃん」と思われ、友人のいなかった女性が、「仲間同士で笑い転げているのがうらやましい。一度でいい、笑い転げたい」と思っていたところ、著者のやっているノンラベルという発達障害の人たちの「居場所」で失敗談を語って、みんなで涙を流し、笑い転げたという。彼女は「仲間と笑い転げるようなことは自分には一生ないことだと思っていた」と語った。
発達障害圏の人たちは孤独を愛しているように見えるが、家族も好きだ。女性にプロポーズするのに、延々と「君とこんな家庭を築きたい」と青写真を語るような男性は、アスペルガーの傾向があるのではなかろうかと思う。好きだから一緒にいようという、ぼくのような「寂しがり屋タイプ」とはまったく違う。
また、発達障害圏の人たちは一様に「神経過敏」だ。よくいえば「繊細」、悪くいえば「神経質」だろう。「聴覚」「視覚」「におい」「味覚」「温度」「痛み」「触覚」などに過敏なことが目立つことが多いようだ。
また敏感すぎて苦しくて、かえって鈍感になってしまう場合もあるようだ。たぶん自己防衛だろう。周りの雑音に紛れて、後ろから呼びかけても気づかず、肩を叩かれたりして突然気づいた時に、パニックになることもあるという。ぼくの母親がそういうタイプだ。ずっと頭痛持ちだったのが、その原因が「まぶしさ」だった人もいる。クーラーのほこりのにおいが嫌いという人もいる。ねこ舌、濃い味が苦手、食べたことのない食品は食べず嫌いで、同じものを食べ続ける、食べるスピードが遅い、外食が苦手、添加物・賞味期限にこだわる、夏でも肌触りのいいフリースを着る、あるいは一年中半袖で通す、散髪が苦手、タートルネックや詰め襟が嫌い(これで詰め襟の制服の中学3年間不登校になって、制服のなくなる高校に入って何事もなかったように学校に行きはじめた人もいるらしい)などなど、結構誰にでもいくつかはありそうな項目が並ぶ。
定型発達者にも、発達の偏りはある。理想的な定型発達の人などいないということだ。KYという言葉が流行り、空気が読めないことがいじめの原因になってきたのはいつの頃からだろう? コミュニケーションスキルの高い人ばかりがもてはやされ、芸人の人気が高まった。そう古い話ではないだろう。今は醒めたりしらけたりすることを誰もが極度に怖れる。躁状態をよしとする社会では、冷静なアスペルガーさんは生きにくいだろう。
発達障害圏の人たちの学校での得意科目は、数学、社会、特に歴史(日本一、世界一の人たちがたくさん出てくる)、理科の実験など。不得意科目は国語(抽象的)、作文、体育(特にチームプレー)、図工(手先が不器用)などだ。ぼくも発達の偏りの目立っていた学生時代には、国語で文章を要約したりすることや体育でのチームプレーがものすごく苦手だった。大人になってから本を読むようになって、あるいはソフトボールやバレーボールをするようになって、ほとんど苦手意識はなくなったのだけれど。
アスペルガーさんの「言葉使いがとても冷静で、丁寧過ぎる」というのも、学生時代には人から浮いて、いじめの原因になったりするけれど、社会人になれば「礼儀正しい」として有力なアイテムとなる。興奮してくるとかえって「ですます調」になったりすることもある。ひどい身体の痛みのある場合でも、「聞かれないと言わない」という特性のために、人に伝えないで病気をひどくしてしまう場合も多いそうだ。
広範性発達障害とは自閉症圏と同じであり、自閉症圏にあり、知的障害を伴わないというのが、アスペルガーの定義らしい。この本ではこういう人たちを、「アスペルガーさん」と呼んでいる。確かに、統合失調症の人は「統合失調症者」と呼ばれるけれど、ぼくも「統合失調症さん」って呼ぼうかな?
(part2に続く)
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