閉鎖病棟からの告発
『閉鎖病棟からの告発』(八木美詩子著、アットワークス)という本を読んだ。
…ふっと、背中に人の気配を感じて振り向くと、鬼のような顔をした主人が私の頭に布のようなものを被せてきた。「うっそー、冗談はよして…」思うや否や主人が馬乗りになり、首根っこを押さえてきた。フローリングに押さえつけられたので、息ができない。「やめて!」思わず押さえている腕を苦しまぎれに引っかいた。何が起こったのかと思っていると、ダッダッダッと勝手口の方から数名の走る音がしたと思いきや、両手両足を押さえられた。その時、被せられた布切れがはずされたので見ると、左腕のシャツが巻き上げられ、注射針が…。「あっ」そこで私の意識は途絶えてしまった。
その後、「私」は車に乗せられ、車は山道を登っていった。酩酊状態のままイスに座らされたが、白衣の男たちに白い錠剤を飲むよう強要され、一気に飲んでしまった。その後、閉鎖病棟で目が覚める。
まるで、小説に描いたような強制入院の様子だが、これは20年も30年も前の話ではない。1998年、10年ほど前のことだ。大阪の大和川病院事件(注)は1993年に発覚し、病院は97年には廃院になっている、そのころだ。著者はこの後、80日間にわたり入院する。退院は、本人の請求による京都府の退院請求審査会で決まった。退院が認められる事例は1%以下という審査会でのことである。
この事例の強制入院(医療保護入院)は、第一に、入院の説得も診察(診断名は心因反応。どうとでもなる診断名である)すらも行われてない。明らかに違法だ。著者は5年後の京都府と病院を訴えた裁判で、「原告に精神障害があったか否かによって、本件移送の違法性が左右されるとはいえない」として勝訴している。
実はこの判決は画期的で、「精神障害があっても、このような移送は違法である」と言っているのである。普通の人は「そりゃそうだろう」と思うかもしれないけれど、移送制度は、精神保健福祉法第34条として合法化されている。精神障害者の家族の強い希望で入れられた項目だ。
裁判で病院側の証人となった京都府内の精神科病院長は、この医師の行動を「何ら問題はない」と擁護している。何という後輩思いの「専門家」なのだろうか。
この事件の構図は、夫と町会議員(後に小泉チルドレンとして国会議員に当選している)によって、入院当日まで美容師として普通に働いていた健常者である著者を、邪魔だから精神科病院に葬ろうという計画が謀議され、精神科医も巻き込んで実行されたものだ。京都の田舎では、地元の有力者はいまだにこういうことが行える力があるらしい。
著者が健常者であったので、審査会でも退院は認められたし、裁判でも勝訴を勝ち取れたが、病者では、同じような移送が行われていても泣き寝入りして、本人にトラウマだけが残る。精神保健福祉法の早期改正が望まれる。
注:大和川病院事件…無資格で未成年の看護人が入院患者をリンチし、死亡させた事件。この病院では、看護人が牢名主と呼ばれる患者を仕立て、弱い患者をシメさせていたりした。リンチ死は月1回のペースであったという。看護師の数は精神科特例さえ守られていなかった。また、精神病のホームレスは生活保護費目当てで病院に移送されていた。病院長を始め関係者は司法で裁かれ、馴れ合いだった大阪府も廃院にせざるを得なかった。ここまで酷くはなくても、似たような体質の精神科病院は多かったと思われる。そのような体質の病院も今はもう一掃されたと信じたいものだ。
コメント
僕の妻も同じような事が起こりました。彼女も身内の秘密を知りすぎて、精神病だと決め付けられ閉鎖病棟にとじこめられました。何の診断もうけずに、3ヶ月も閉じ込められて子供を失いました。これから裁判をしたいのですが、方法がわかりません。専門の弁護士さんとか何か良い方法がないのかと毎日探しています。
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