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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

連帯保証人(part2)

 夏目漱石の「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される」という言葉がある。とかくこの世は住みにくいのだが、現代人はみんな賢くなってしまって、流されず「智」に傾き過ぎていると思う。受験競争やネットによって、実体験を重ねる前に多くの情報にさらされたら、当然人は「智」に傾くだろう。世間の機微を知らない理論家が増えているような気がする。
 日本は伝統的に「情」を重んじてきたのに、今ではアメリカ流の合理精神が人々を対立させ、みんな孤立していっている。「危機管理」だとか「リスク」などの流行は「智」に寄り過ぎだ。
 もっと人は「情」を大切にして愚かに生きていい。人間同士「情」を交ぜ合わせて付き合って、ある程度は流されて生きるのがいいのだろうと思う。ペーソスのオヤジたちの生き方は、昭和のオヤジたちにある程度共有されていた生き方なのかもしれない。

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 仕事で自分に敵意をもつ人と付き合わざるを得ない職業の人は、懐が深くなる可能性があると思う。急性期の患者さんと多く話す精神科の先生なんかも、機械的に注射と保護室を使ったりしなければ、懐が深いといえるだろう。どんなに自己主張の激しい人でも受け止めるカウンセラーとか。あと、みんなに嫌われる警察官とかも、敵意をもった人とばかりと付き合うため、自然と懐が深い人が多いかもしれない。
 自分に逆らい、反抗する人に不快感をもつのは健康な反応だ。反抗されてもやさしくできる、いや、反抗し害をなし続ける人にこそやさしくなれるというのは、他者から必要とされたいという共依存の、深い自己満足があるような気がする。「自分は相手より、こんなにも大人だ」と。
 他人の連帯保証人になって淡々と借金を返し続けることは、多くの人がハマっている共依存の自己満足から、さらに突き抜けていているように思う。共依存につきものの上下関係、権力関係からまぬがれたアナーキーな生き方だ。金を貸しても平等な関係が感じられる。しかし相手に怒りをぶつけないと、一つ間違うとそういう自分に怒りが向いて、うつ病にもなる。ペーソスの人たちはうつ病親和性がある。でも肩から力が抜けていて、向上心がなく頑張らない人は、どこか飄々としてユーモアがある。「血糖値が高いから〜♪」。
 懐の深い国というのを夢想する。国が攻められても反撃をしない。たとえ国民から腰抜け呼ばわりされても。運悪く自分の家族が犠牲になったら「守れなくてごめん」と悲しみに暮れる。憎しみをたぎらせて反撃すれば、敵国にも犠牲家族が増え、不幸な人が増える。そうして「憎しみの連鎖」が次々に起こって、戦いは拡大して両国の傷を広げていく。
 反撃しない懐の深い平和国家はつらい。しかし人は、怒りを我慢などできないし、外向きには強く出るものだから、国は全力で反撃する。反撃の応酬が繰り返され、憎しみの連鎖が続けば、もう誰にも戦争は止められない。戦争が続き市民に厭戦意識が広がっても、今度は産軍国家システムが自動的に戦争を続行する。

 ペーソスは、向上心などもたず一生懸命にならずに「無理をしない、がんばらない」という言葉で、エッセイの最後を締めくくってある。ぼくのような病気持ちにも、それが一番の生き方だ。
 40代までのぼくは、ワガママな人や常識的な人、そのほかの多数派の人たちに嫌悪感を抱いて、話もしたくない、という態度をよくとった。自分は正しいという信念を持っていたぼくも、ワガママな人間だった。最近もP協会でトラブって辞めたところだ。
 人の良い点だけを見るようにして、悪いところは「弱いんだから仕方ない」と批判せず受け入れることは、とても難しい。懐の深さは、日常に一つひとつ起きる自分に対する敵対的事件に、どう対処するかで試されるから、ぼくも「智」に傾いた懐の浅い人間のひとりだろう。もっとも、身近な母親を受け入れることができていない。ぼくを虐待した母親を許したり、飄々とした対応ができるかどうかは、これからのぼくにとって極めて大きな問題だ。たぶん母親のほうが先に臨終を迎えると思うけれど、まっさらな心で送ることができるのかどうか…。


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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