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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

テポドンなんかで騒いでいる時じゃない(part2)

 自殺を考えている人は「死にたい」のではない。精神的苦痛から「楽になりたい」だけなのだ。身近な人が相談を受けたら、「楽になる」方法がほかにないのか、ゆっくりと話を聞いて一緒に探すべきだろう。
 何よりも、いざという時に頼れるネットワークが存在していることが大切だろう。自殺を考えている人の多くは、「人に頼る」ということを思いつかない。いくら税金をつぎ込んで相談支援ネットワークを作っても、この問題は一筋縄ではいかない。身近な人のちょっとした異変に気づき、相談支援ネットワークにつなげることのできる、身近な人への不断の「関心」が大切になってくる。

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 「愛の反対は無関心だ」というのはマザーテレサの言葉だそうだが、「愛」とまでいわなくても、身近な身内であろうと他人であろうと、「関心」を持つことで、あなたもネットワークの一員になる。
 最近の新聞で読んだのだが、「『命の電話』のボランティアが足りない。相談数は増え続けているのに、相談員の数の減少が止まらない」ということだった。「命の電話」の相談員養成講座も大幅な定員割れだし、受講料も2万円ほどと高い。
 何かと自殺未遂者には評判が悪いところもあるのだが(注1)、ボランティアにばかり頼らず、きっちりと税金を投入して、相談を受ける体制と多くの分野にまたがるネットワーク作りをすべきだろう。人の話を黙って「傾聴」できる人を増やすべきだろう。電話相談だけではなく、実際に会って、一時的な友人関係になって相談を受ける「ビフレンダーズ」という活動もある。

 この不況で、首を切られた多くの人や会社が倒産した人たちが、経済的に追い込まれ、精神的にも追い込まれるのは目に見えている。首を切られなかった正社員には、労働強化による過労死の問題がふりかかる。今のこの社会構造のままでは、ますます自殺者が増えることはあっても、減ることはないだろう。
 自殺の行動は繰り返されることも多いので、自殺未遂者に対する地域のネットワークの取り組みは重要だ。男性のほうが女性より自殺率が高いのは、男性のほうが地域とのつながりが乏しいからだろうし、一人で抱え込む男の沽券などもあるのだろう。おせっかいでも、ハイリスクの人たちを孤立させないことだ。
 国民的問題として数値目標を立てるのもいいことだが、こういう人間関係を耕していく分野は、すぐには結果が出ない。10年後20年後を見据えて、根気よく取り組むべき課題だ。

 バブルで国にも金が余っていた頃、「福祉国家には自殺が多い」というネガティブキャンペーンがマスコミを賑わせた。それが功を奏したのか、日本は福祉国家への道をたどらなかった。ここで、福祉国家の代表としてフィンランドの取り組みを紹介したい。
 かつては現在の日本と同じくらいの自殺率だったフィンランドは、自殺予防国家戦略を立て、1990年の最悪期と比較して、2002年には自殺率を30%もダウンさせた。まず、自殺者全員の「心理学的剖検」(注2)を行った。全遺族がこれに応じたのはすごいことだ。その結果から「未遂者に対する支援」「うつ病に対するプロジェクト」「地域における子どもの心の危機管理対策」「若者の生き方の支援」「警察との協力」「労働省との協力」「失業者に対する対策」「男性の自殺予防へ向けた互助」「薬物依存と自殺予防」など、40ものサブプロジェクトを全国民の問題意識の共有のもとに10年あまり続け、自殺者を大幅に減らした。まずこの原因を探る「心理学的剖検」からでも、日本で実行できないものだろうか?

 清水由貴子さんの自殺が報道されている。母親の介護に疲れていたらしい。介護システムにまつわる、さまざまな問題が思い浮かぶ。硫化水素を使った自殺だけで毎月100人を超えているという。

注1 「命の電話」には、なかなかつながらない、つながっても切羽詰まった事情をなかなか理解してくれない、常識的なことしか言われなくてかえって傷ついた、等々の声もある。
注2 心理学的剖検(psychological autopsy)とは、自殺者遺族へのケアを前提として、自殺者の遺族や故人をよく知る人から故人の生前の状況を詳しく聞き取り、自殺が起こった原因や動機を明らかにしていくこと。


コメント


 放課後児童クラブで働いていたとき、クラブの児童と同じ小学校の上級生が親子心中に巻き込まれ死んでしまったことにはヘコみました。
 クラブの利用者である女の子が、その事をクラブで気にしているのだし、私自身が自殺防止の電話相談員のボランティアの講座を受けている最中だったということもあったもので…。
 それに親子心中を知ったのも地元紙の報道によってだということもありまして。こういう状況の中私自身が何が出来るのだろうと考えています。


投稿者: 祖父江元宏 | 2009年04月24日 19:25

 人のネットワークというのも、縁ですね。偶然深い関係でなかったとか、ちょっとした情報が入って来なかったとか、一人でできる事も限られていると思います。関わった人をそれこそ何とかできたらいいですが。
 確かに知り合いが自殺すると、へこみます。みんな不幸ごとを秘密にする習性がありますね。


投稿者: 佐野 | 2009年04月28日 18:19

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
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