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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

アダルトチルドレン(part1)

 今となっては、90年代に大流行だった「自分探し」や「アダルトチルドレン」の議論が懐かしくなってしまったけれど、今の若者はもっと厳しく、生活していくのに精一杯というところに追い込まれている。
 雨宮処凛さんは、「以前は『機能不全家族』いうことで、若者の怒りが親ばかりに向かったが、今はネットカフェ難民問題などで、怒りが社会に向かっている」と言っていた。昨年は、小林多喜二の『蟹工船』ブームで、共産党への入党者が年間1万人増えたそうだ。

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 しかし、「機能不全家族」はなくなったわけでもないし、「アダルトチルドレン」がいなくなったわけでもない。それどころか、うなぎのぼりの虐待報告件数が、「機能不全家族」が増えていることを示している。
 「アダルトチルドレン」とは、「幼い時から主に精神的トラウマになるほどのストレスを受けた人のこと」というのがぼくなりの定義だ。余裕がないタイプの親が子どもを虐待したりして、ストレスを起こしやすい感じがする。経済的・個人的コンプレックスが原因による親のストレスが拍車をかけるようにも思う。
 虐待する親が虐待しない親に変わるには、子どもを信頼できるまで、目を背けずに自分の弱さと直面することが必要かもしれない。そのままでは、弱者が弱者を虐めているだけだ。それに虐待同様の強い傷つき、例えば他人からのものや戦争、天変地異などでも、子どもに暴力的に働くあらゆるものは、アダルトチルドレンの原因になると思う。

 酒に酔っぱらって暴言を吐くような人は、できれば親にならないほうがいい。自信過剰で自分を周りに押し付ける人は、できれば親にならないほうがいい。世間体を過度に気にする人は、できれば親にならないほうがいい(そういう人に限って、「子どもくらいいないと世間体が悪い」って言いそうだけれど)。理想に燃えて必死に努力している人は、できれば親にならないほうがいい(理想家は理想家と結婚しがちだと思うけれど、そうすると家庭に子どもの逃げ場がない)。不幸な人、友人がいない人は、できれば親にならないほうがいい(反対に、幸せな親は周りに幸せを分け与えることができる)。堅い殻を築いて、弱みを見せない人は、できれば親にならないほうがいい。我慢()している人、怒りをためている人は、できれば親にならないほうがいい。
 ぼくももちろん、できれば親にならないほうがいい人のひとりだ。しかしそんな親に育てられた子どもが、自殺や犯罪も犯さず、「サバイバー」となり生き残り、さらに前向きに生きることもあるのだから、人生は面白い。
 ぼくの妹は、母親から「世間体」「女らしさ」など、「世間の常識」という武器を使って、大人になってからまでも徹底的に痛めつけられた。妹が泣いて抗議する姿を何度か見た。今はたくさんの趣味に大忙しの妹だが、一時期アダルトチルドレン関連の本ばかりを山のように読んでいた。母はというと、神経症の固い鎧を着た、「嘘をついてでも秘密は墓に持っていく」という人だった。それが歳をとって、今はだいぶ自分に正直になってきているように見える。

 幸せな子どもとは、お行儀が悪く、甘えていて、ワガママで、グータラしている、まるで「ちびまる子ちゃん」のような子どもだと思う。安全な環境にいると、緊張することがない。子どもを守るとは、親や社会ができるだけ子どもが緊張しなくていい環境に整えることかもしれない。

:我慢とは、「我に執着した慢心」おごり高ぶる「七慢」のひとつ。仏教は深い!
(Part2につづく)


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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