ページの先頭です。

ホーム >> 福祉専門職サポーターズ >> プロフェッショナルブログ
佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

ホームレス

 バブルがはじけた頃、それぞれの企業は合理化、リストラをして、体力を温存したと繰り返し報道されたけれど、リストラされた本人がどうなったかはほとんど報道されていない。

 『今日、ホームレスになった―13のサラリーマン転落人生』(増田明利著、新風社)という本を読んだ。「転落」なんてマスコミが好んで使うけれど、ホームレスになることは、果たして「転落」なのかなあ。生活形態が変わっただけだと思うけれど。かえって自分を縛っていた窮屈な会社価値観から自由になれたのかもしれない。エリート管理職や社長がすべてを失って、ホームレスになってく様子が本の中でインタビューされている。

続きを読む

 本から。「サラリーマンというのは、組織に所属しているから評価してもらえるんだ。辞めたら惨めなものだよ」元大手商社財務部次長。「お金を持ち過ぎて自分を見失う人は多い。だけどお金がなくて人生が破綻する人はもっと多い」元証券会社外務員。「大学まで出て、比較的大きな会社で管理職をやっていたけどそんなものは何の役にも立たなかった」元建設会社営業部長。「歳を取るのが悪いのか」元住宅メーカー営業所長。「生まれ変わってもサラリーマンだけにはなりたくない、もう嫌だね」元自動車部品メーカー管理職。「妻の馬鹿にしたような態度を見て無性に悲しくなったよ」元大手デパート外商部副部長。

 技術職などは会社になくてはならないので、営業や管理職からまず首を切られる。そうすると、「亭主元気で留守がいい」だったのが、「昼間から家にいるなんて」と奥さんから邪険にされ、折り合いが悪くなりやがて離婚。再就職の会社も、雇うなら若くてやる気のある人件費の安い若者を採るので、40歳50歳になった元管理職では、経験を生かした就職先はおろか、年齢制限でそもそも雇ってくれる会社がない。しかたなくガードマンやコンビニ、掃除、チラシ配りなどをやる。慣れない仕事でストレス性の病気にもなり、バイトすら首になる。退職金や雇用保険もなくなり、金の入るメドがなくなると、アパートも出ざるを得ない。
 道ばたに段ボールを敷いて弁当を食べたり、酒を飲んでいるところを通行人に見られても、いとも簡単に平気になる。通行人から露骨に避けられるようにもなる。

 生活困窮者のためのNPO法人「もやい」の湯浅誠さんは、「5重の排除」ということを言っている。
 1つ目は教育からの排除。貧乏な家庭に育つと、中卒や高卒で世間に出される。
 2つ目は企業福祉からの排除。会社の福利厚生や退職金、失業保険も、非正規労働者にはない。正社員であったこの本の登場人物の場合、退職金はローン返済などで使い切られている。失業保険は給与の6割であることは知っていたが、上限が27万円であるらしい。どんなに会社に長く勤めても、給付期間は1年足らずだ。
 3つ目は家族福祉からの排除。家族で助け合えなくなったら、いとも簡単に貧困に陥る。この本の登場人物も「家庭」という居場所がしっかりしていれば違うのだろうが、奥さんからも見放された中年男はいかにももろい。
 4つ目は公的福祉からの排除。生活保護も、ホームレスで住所不定でも、窓口でがんばればもらえるのだが、そういう知識がないと、「働きなさい。アパートに入ったらまたおいで」と追い返されてしまう。サラ金の取り立てから逃れるために、住所を定められない人もいる。住民票を取ったら、厳しい取り立てが再開する。もちろん住民票がなければ、仕事を探すことも、福祉につながることもない。
 5つ目は自分自身からの排除。絶望して、ホームレスの生活に安住してしまう。年収何千万円なんて世界にいた人はプライドが邪魔して、生活保護の申請にも抵抗がある。

 今また、世界的規模の不況が叫ばれ、世界恐慌の前触れだという人もいる。国内では自動車産業をはじめとして、非正規労働者の首切りの嵐だ。セーフティーネットにかからない、多くのホームレス、あるいはネットカフェなどの難民になる人が出てきている。年末年始は日比谷の派遣村に労働者500人以上が集まり、炊き出しをする様子が大きく報道された。
 年始のテレビで、小泉内閣で大臣として経済的ブレーンであった竹中平蔵さんが、「法人税引き下げ」「正社員が非正規を搾取している」などと、その企業目線ぶりにびっくりするようなことをいまだに主張していたが、トヨタやソニーでは正社員の首切りもすでにはじまっている。ブレない発言には感心するが、労働者の現実を知らないだけなのかもしれない。法人税を下げたら個人的な支出でも会社の経費で落とすようにするから、結局笑うのはお偉いさんだ。

 「すべての幸福は安定した経済的基盤の上に成り立っている」という、ひとりのホームレスの言葉にしみじみとしてしまった。現在、国内労働者の20%が年収200万円以下というワーキングプア状態におかれている。実家に帰れない人は、入居に必要な敷金礼金など、まずはお金の心配をしないと、誰もがいつホームレスになるかわからない。人ごとではない。
 一昔前にはホームレス支援は過激派や市民運動家のものだったけれど、日比谷派遣村を見ていると、普通の人たちが炊き出しに加わっている。それだけ、ホームレス問題が深刻になっているということなのだろう。


コメント


 訪問、コメントありがとうございます。
>誰もがいつホームレスになるかわからない。人ごとではない。
 ほんとにそのとおりだとおもうのですが、このことが驚くくらい理解されてないのがネットの世界なのですね。
 いろいろなブログで、派遣は甘えている、派遣なんかしているからこうなるのは当たり前、努力が足りんからだ、派遣村なんか甘やかしだみたいな意見が大喝采で人々に受け入れられて転載、転載で広がっているので驚きました。
 紹介されてる本によれば、大企業の重役だった人でも、オームレスになっているのですね。
 誰がそうなっても少しも不思議ではない社会の仕組みになっていること、理解されていません。
 竹中のばかたれと同じことを言ってますね。正社員がもう時代に会わず古いのだからこれを失くせ、という議論も出てました。


投稿者: はなことり | 2009年01月19日 02:39

 久々のコメントでうれしいです。
 小泉チルドレンみたいな意見を言う人がネットでは多いようです。小泉改革の頃から、小さな政府では福祉はどうなるんだ!って思っていました。
 派遣は甘えているなどと言う人は、生活感がまるでないように見えます。人にあんなに厳しくしたら、現実世界では孤立してしまうし、自分の弱さを見つめられないのではないでしょうか? 若さなのでしょうか?


投稿者: 佐野 | 2009年01月19日 18:23

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

コメントを投稿する




ページトップへ
プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
sanobook.jpg
メニュー
バックナンバー
その他のブログ

文字の拡大
災害情報
おすすめコンテンツ
福祉資格受験サポーターズ 3福祉士・ケアマネジャー 受験対策講座・今日の一問一答 実施中
福祉専門職サポーターズ 和田行男の「婆さんとともに」
家庭介護サポーターズ 野田明宏の「俺流オトコの介護」
アクティブシニアサポーターズ 立川談慶の「談論慶発」
アクティブシニアサポーターズ 金哲彦の「50代からのジョギング入門」
誰でもできるらくらく相続シミュレーション
e-books