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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」 2009年01月

障害に甘える

 「障害に甘えるな!」
 就労支援をやっているある援助者が言っていた言葉である。
 どうして甘えてはいけないのだろう? 健常者だって仕事の手を抜き、奥さんに甘えているのに。なぜ障害をいいわけに使ってはいけないのだろう?

 アルコールの人は自分に甘いと言われる。アルコール以外の人だって自分に甘くて自分はダメだと思っている人はいっぱいいる。アルコールを飲み続けて肝臓を壊し、糖尿病で目が見えなくなり、一人で歩けなくなり、死を目前にしてやっとアルコールを止める人もいる。周りの人に借金を押し付け、迷惑な粗大ゴミだと言われ、それでもまだ飲み続ける人だっている。生きることが嫌で嫌でたまらなくて、自殺未遂を繰り返し、やがて死んでしまう人もいる。



昔のムゲンと今のムゲン

 昔のムゲンには、家出娘が来たり、車いすの人が出入りしたり、高校でのいじめられっ子がきたり、左翼運動家もきたり、それこそいろいろな人が出入りしていた。みんなで作って食べる昼食会は、その頃から今もずっと続いているけれど、かつてはメンバーから「波津子さんがお母さん、佐野さんがお父さんで、みんな家族みたいだ」と言われたものだ。



ホームレス

 バブルがはじけた頃、それぞれの企業は合理化、リストラをして、体力を温存したと繰り返し報道されたけれど、リストラされた本人がどうなったかはほとんど報道されていない。

 『今日、ホームレスになった―13のサラリーマン転落人生』(増田明利著、新風社)という本を読んだ。「転落」なんてマスコミが好んで使うけれど、ホームレスになることは、果たして「転落」なのかなあ。生活形態が変わっただけだと思うけれど。かえって自分を縛っていた窮屈な会社価値観から自由になれたのかもしれない。エリート管理職や社長がすべてを失って、ホームレスになってく様子が本の中でインタビューされている。



獄の中の不条理(part3)

 山本譲司氏は、獄中生活をともにした障害者たちの消息を追った。釈放された知的障害者で行き先のわからない人は、全体の44%だそうだ。「シャバに戻るのが怖い」と訴えていた肢体不自由者は自殺していた。また変死している者もいた。やっぱり刑務所に戻ってしまった者も何人かいる。ほかには暴力団にいる者、路上生活者になっている者もいた。
 軽度の知的障害者は暴力団にいて、「俺よー、いま、めっちゃ楽しいんだ。周りには俺と同じように、ムショ上がりがいっぱいいるし、組の兄貴たちにも可愛がってもらっているし」と言っている。「あいつを撃ってこい」と命令されれば、鉄砲玉として即飛んでいきそうだが、「生まれて初めて見つけた居場所」かもしれない、と言っている。



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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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