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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」 2008年07月

三橋歌織被告について

 三橋歌織被告をご存知だろうか。セレブ妻バラバラ殺人事件といえば、思い出す方もいるだろうか。
 「早く、早く離婚の話を切り出さないと。このままではまた暴力が始まるかもしれない」
 「彼がリビングにやってきたので、私は離婚の話を切り出して、離婚届をテーブルに置いた」
 しかし、離婚届は破られた。
 「夫の浮気相手との会話を収めたICレコーダーのことは話したら危ないと、母に言われて我慢していた」
 「彼が寝た後、キッチンに入った」
 「ワインボトルを持ってリビングのほうに行った。リビングに行って、彼を殴った。夫を殺した」



秋葉原無差別殺傷事件

 加藤容疑者の犯行は、原因が極めてわかりやすい。モンスターでも変態でもない、ぼくも普通に共有できるものが極めて多いからだ。
 彼は、小学生のときは秀才で、進学校に入って優秀な人たちばかりの中で落ちこぼれ、挫折感とコンプレックスを抱いていた。そして、成績にも性的にも厳しい完璧主義の母親に育てられたという報道を聞いて、背筋が寒くなった。ぼくとそっくりだ、と思った。



虐待された子の復讐

 ハンドルネーム「暗器使い」さんというブロガーがいる。彼は、小学校1年生の時に担任やクラスメートからいじめられたのを始まりに、高校まで暴力、シカト、性的暴行まで受けた。小学生の時には自殺願望がまだあったけれど、中学生以降は頭が真っ白になって、ゴミ扱いされ続けるうちに、「俺はゴミだ」と受け入れるしかなかったという。



虐待の果実

 虐待されて育つと、普通は受け入れられない人間までも無防備に受け入れる包容力をもつ。ぼくは獄中者と文通していたこともあり、脅されたこともある。そういう「ともに生きる」実践という意味では、「虐待されてよかった」のかもしれない。しかし「よかった」と言い切ってしまうと、まだこころの傷の存在に気づく。実際、被虐待児が大きくなると、精神病、性倒錯、犯罪者などになる可能性も高く、極めて個性的だ。でも「よかった」と言うことで、今までの肩の荷が降ろせるような気がする。



年寄り

 ぼくも53歳になって、歳をとったなとつくづく思う。昔は波津子から「歯並びがいい」と言われた歯も、今では歯槽膿漏で前歯などてんで勝手な方向を向いている。まだまだ若いと思ってバレーボールをした後や、長い階段を下りる時など、右の膝頭が痛くてしようがない。
 もう10年以上伸ばしている髪の毛も、新しく長くは伸びない。栄養が行き渡らないのだろう。ムゲンの女性軍から「加齢臭がする」と言われるのも、もうすぐだろう。



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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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