男はいくつになってもマザコン
人間を前へ前へと進ませる原動力はといえば、当然「欲」であろう。両手一杯に何かをつかもうと、生きていく。
この欲を否定する態度として「諦める」というものがある。酸っぱいブドウの話は自分を偽って「欲しくない」と強がるものだが、自分にはどうしようもない現実に直面し、本当に何かを諦める時、人はこころにきしみを生じさせる。このきしみを体験しながら、人は一歩ずつ大人になっていくのだと思う。「我慢」することでは、人は成長しないのではないか。
リスキーシフト
リスキーシフトという言葉をご存知だろうか? 普段は穏健な人たちが集団になった時に、同調圧力によって極端な決定に全体が流れることである。ワーカーになるための受験勉強で習った。
理想が現実に敗れる
春日武彦という精神科医が、『病んだ家族、散乱した室内』(医学書院)という本の中で、往診で急性期の本人を1時間半以上説得しても「ラチ」があかないと、腹を括って無理に車に押し込んで入院させた。まさに「拉致」だ。
しかし車に乗るまでは怒鳴ったりしていても、車が走り出すと妙に清々したように落ち着いてしまい、暴れたケースはなかった。本人にも病識(注)はなくても病覚(注)はあったのではないのか、このままじゃ自分でもまずいと思っていたのじゃないか、と述べている。
ムゲンの歴史、ワーカーとして
ぼくが作業所を作りたいと思ったのは、もう30年くらい昔になる。
それから5年くらい経って、具体的な設立資金集めを始めた。主な手段は廃品回収と、それで集めた余剰品バザー。ぼくの再発入院の時期を挟んで、5年くらいで150万円を集め、古本屋として、そして何よりも居場所としてオープンした。
ムゲンという名称は、資金集めから一緒にやっていた病者のNさんが付けてくれた。Nさんとは連絡を取っているけれど、今では老いて外出もほとんどしていないようである。30年前当時、松山市にあったのは精神障害者の当事者会が一つと、家族会作業所が一つだけだった。