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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

施設を守ること

 病者の支援を続けるには、施設を守ることが大事だ、と考えているワーカーも多いと思う。しかしこれは、病者の生活を考えてというよりも、本音のところでは自分の生活の糧を得るための職場を守りたい、という考えがまず基本にあるのではないだろうか。
 たしかにぼくの親には金があって、坊ちゃん育ちで援助も期待できるから、貧困にあえいできた、ハングリーで何がなくてもまずは金、という人とは違うかもしれないが、ワーカーだってそんな人はそう多くないと思う。
 しかし、倫理要綱にもあるように、「ワーカーとはまず病者のために」ということを基本にすえないといけないはずだ。それで「施設を守ることが病者のためになる」と素直に言えるワーカーを見ていて「幸せだなあ」と思う。

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 ムゲンでは「メンバーのため」とはいえ、病者の選別は確実に行ってきた。今来ているメンバーの意見を優先して、しかも僕らの器では抱えきれないと判断すれば、断ってきた。そういう意味では「排除しない理想」から外れている。設立以来今年で20年、ムゲンはそれほどたいしたことをやってきてはいない。ぼくも「理想」を語っていた若い頃はいい人だったのかもしれないが、今思えば無邪気な自己中心性に基づくサービス精神だったように思う。
 自立支援法が成立し、保健所から「作業所のままでは将来的に援助金を減らす」と脅され、いやいやNPO法人化を行った。ムゲンのメンバーの意見を聞いて決めたというより、生き残るには法人化しかないと、無理矢理メンバーを説得した。法人化とはつまり施設化である。ムゲンは患者会として、「施設から地域へ」ということを言ってきたのに、自らミニ施設への歩みを踏み出した。
 とりもなおさず、施設存続のためには、規則や強制が発生するし、メンバーの犠牲もいとわなくなる。最低定員10名を守るために、病者の囲い込みも行う。当初の志とは大きく変質してしまった。作業所はボランティアや法人社員なども入りやすく風通しがいいので、腐りにくいというのが、多少の救いではある。

 さて、触法障害者施設のように、キャラの濃い悪人ばかりを1か所に集めてはならない。もちろん悪人というのはユーモアだが、彼ら彼女らは各地域に住むべきで、病院も含め地域のキャパを考えて、各施設でそれぞれ支えられるべきだと思う。
 なぜそんなことを言うかというと、一人のメンバーのためになるなら、ムゲンの存続なんてどうでもいいと思ってきたからである。
 メンバーの意向を守ることなく、施設運営を守ることを優先してはいけない。病院は今まで運営を優先にして入院患者を経営安定の担保に使い、世界的に突出した長期入院患者数を作り出し、また、不祥事も散々マスコミを賑わせてきた。そして今、退院政策の中、生き残りをかけた厳しい局面に差し掛かっている。
 病院勤めのワーカーが、退院政策の末にリストラ解雇される可能性だってあるだろう。そこで病者のために何かを自力で立ち上げるなどという篤志家はまずいないのではないだろうか。ぼくは病者であり、患者会として自分の居場所がほしいという動機があったが、ワーカーでそこまでの動機をもっている人はいない。それどころか、生活の手段として、サラリーマンとして最低限働いている人が普通だろう。国家資格化のもたらした結果なのかもしれない。
 しかしそんなワーカーの「想い」とはまったく別に、病者は自立すればするほど、ワーカーを見捨てていく。つまりワーカーは、自分の仕事をなくすために仕事をするという逆説である。だからメンバーがムゲンはいらないといえば、いつ潰れてもかまわないと思っている。
 ムゲンは捨てられるために存在している。実際居場所として、仲間として必要だったムゲンから、彼女をつくって、あるいは一般の仕事に就いて、あるいは親の介護のために卒業していく人も多い。自傷系ネットの仲間から卒業できずに、オーバードーズ(OD)して亡くなった人もいる。居心地がいい仲間から、次の居場所を見つけて卒業したくなるタイミングというものもあると思う。


コメント


>病者の生活を考えてというよりも、自分の生活の糧を得る為の職場
 僕は施設勤務時代、多分これを言われてたら、逆ギレしてたでしょうが、これは支援者が腹のそこで思ってて言わないだけです。今はキレません^^

>施設存続の為には、規則や強制が発生する。
 最低定員を…守る為に、病者の囲い込みも行う。
 自分のやっていきたい事と今やらなければならない事に、かなりジレンマがあるんですよね…。
 作業所が施設維持に多かれ少なかれ抱えてる問題ですよね。

>病者は自立すればするほど、ワーカーを見捨てていく
 僕はワーカーが定期異動で去って、支援が一からやり直しになった事があります。
 自分の仕事が続けれなくて、支援して貰ったワーカーさんとサヨナラになったりもありました。
 最近はワーカーと関係が悪化したり?・変化したりで、こちらから距離を取ることの方が目立ちますよ。
 これは同じ病者でも一緒です。


投稿者: 匿名 | 2008年01月20日 06:05

 匿名さんは、ワーカーさんですね。匿名の書き込みには返事しないことも多いのですが。
 まずワーカーが自分の生活が出来て、その土台の上に支援がある。ぼくだって考えていますよ。定期異動にしたがうことは、まず自分の生活ありきですね。メンバーのおかげで食って行けるのですから。自分が20年前にムゲンを立ち上げた時には、バイトした金をムゲンにつぎ込んでいましたから、ぼくも変わりました。
 施設の存続を守れば、新しく来る人の支援だってできる。しかしぼくは今いるメンバーがムゲンは要らないと言えば、潰れてもいいです。
 最後の節が分かりません。匿名さんは、病者なのですか?


投稿者: 佐野 | 2008年01月20日 16:02

 また匿名になってますよ。別にこの件は匿名にしなくてもいいのに。最後の節は、書き間違えです。


投稿者: ハイドラ | 2008年02月09日 05:20

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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