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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

患者嫌い

 最近の若い精神科医は患者嫌いが多くて困ると、ある老医師が言っていた。やたら陽性症状の短期消失だけを目的とする電気ショックばかりやりたがるという。そんなに幻覚妄想のある患者さんとの付き合いが嫌なら、外科でもやってください、とでも言うほかない。精神科の患者さんは慢性疾患なのだから。

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 電気ショックを行う医師の側の一部に明らかな嗜癖がみられると主張する医師もいる。最近の若者は、特にコミュニケーション下手がいろいろなところで指摘されているが、受験勉強の世界しか知らない若者が多いとすれば、患者との付き合いなどは至難であろうかと思う。
 ワーカーもぜひ患者好きになってもらいたいものだが、一般人同士のコミュニケーションで苦労している人が患者さんと付き合うのは大変だろうな、とは思う。ぼくも患者会を立ち上げたのが20年以上前、それを元にした作業所を立ち上げて19年になるけれども、かなり患者好きでないとやっていられない。「もう嫌だ、こんな患者さんと付き合うのは」と思ったことも何度もある。
 しかし、そこで挫けるか続けるかは、結局初心の「患者が好きか?」というところに戻るような気がする。そして、ワーカー自身が患者と同じ弱者のひとりでしかないことに自覚的でありつづけること。自分が強さを求めると、どうしても弱さを憎むようになる。それでは、この業界で仕事は続けられないだろうと思う。
 統合失調症の患者さんはおしなべて、嘘をつくのが下手なお人好しが多い。それを好きだというワーカーさんもいる。原因を振り返るに、統合失調症の人は自分を守る防壁が薄い人が多いと思う。言葉を変えれば「人なつっこい」。そのため、脳の異常時にも容易に他者を自己に受け入れてしまう。それが被害妄想や幻聴に変わるのだと思う。反対に、防壁の厚い人は脳の異常時に神経症になってしまい、自己から出られなくなってしまう。これはもちろん、学術的に認められた説ではなく、ぼくの経験からくる印象に過ぎないのだが。
 トラウマを抱えたワーカーさんもいるが、統合失調症の人はPTSDを癒すともいう。ワーカーさんは統合失調症の人と付き合うことがたぶん多いと思うので、その人なつっこさをぜひ愛してほしい。そこから始まり、ズブズブと精神業界の深みにハマってほしいものだ。

【参考】精神分裂病者が持つ“癒しの力”について
http://www7.ocn.ne.jp/~k-goto/rep_13byouti.htm


コメント


 患者を敬遠がちの精神科医が確かに目立ちます。感応精神病にならないように距離をとってるのとは、明らかに違う。
 ワーカーになっても、すぐに辞めてしまうワーカーも多い。カウンセラーにしても、そう。
 どうして、こんなにも早く患者との付き合いを諦めてしまうのだろうか。上手く付き合う方法を考えようとは思わないのだろうか。

 何のために精神科医になり、
 何のためにワーカーになり、
 何のためにカウンセラーになったのか。
 初心を思い出して、挫けずに続けて、
 根気強く患者と上手く付き合ってほしいものだと思います。


投稿者: taro | 2007年10月18日 23:20

 短い期間での入院・治療で、慢性化しないのであれば、社会復帰も望めていいではないでしょうか。ただ、心の面で考えると、体と違って回復には年単位くらい相当時間がかかるのが現実。あくまで私個人の経験ですが。
 長い付き合いのある友人ですら、退院したあとに会って話し込んだりすると、自分自身非常にストレス、混乱を感じます。あるいは憎しみを向けられたり?
 佐野さんの言われることもわかりますが、仕事としてかかわってもらってる方々が健康であるからこそ、安心してこちらもいろいろ相談したり指導を仰げるのではないでしょうか?
 聞いたことと現実が同じとは限りませんし、大雑把なことなら新聞とか広報でもわかりますよ。
 もっと日々の工夫とか楽しみ方とか教えてもらえることを願います。


投稿者: Hiromi.S | 2007年10月19日 00:49

 taroさん:本当にそう思います。

 Hiromi.Sさん:まず、どういう状態を「社会復帰」ということから話をしないといけないと思います。当事者の方なのですね。当事者の本音としては、本当は友人に相談に乗って欲しいけれど、なかなか出来ないので「しかたなく」ワーカーに相談するのだと思います。
 ワーカーになる通信教育で、「ワーカーは職をかけてまで病者の人権を守るために闘うべき」みたいなことを習ったので、「なんて素晴らしい人達なんだ!」という過大な期待があり、それが崩れていったから、ワーカーには辛口なのかもしれません。
 日々の楽しみは、メンバーとふざけたり、エロ話したりありますが、なかなか文章化しようと思うと難しいです。


投稿者: 佐野 | 2007年10月19日 19:09

 タコちゃんです。
 非常に参考になりました。ありがとう。
 ボクは、患者嫌いの方に入るかも知れません。仲間の名前を覚えるのが苦手になってきたしね。
 たいてい、知り合いと会うケースは、ボクから声をかけることはなく、声をかけられるケースが、ホント多いですから…。
 外骨腫の手術の件はなくなりました。MRIの詳細な結果、悪性化の心配はないだろうということで。


投稿者: iida keisuke | 2007年10月19日 20:06

 医療・福祉の育成システムが、国家資格取得重視に偏ってて、利用者の接し方は、施設・病院に放り込まれて勉強するように、なってるからでしょう…。
 あと、医療施設の伝統が、未だ利用者を指導する所から抜け切らないので、新人もそれに馴らされざるを得ない面もあると思います。利用者との支援関係が上下関係ではないか?と、僕が考える所以です。
 あと、支援者は利用者に振り回される面がありくたびれますので、支援者は心の安定を図るため、健常者のパートナーを作る必要があるのです(そうでない支援者もいるが)。
 なので、支援者と利用者の置かれてる状況は、経済的な面も含め、違うのだと思います。病気の人の気持ちがわからないのは、ある意味、当然なのだと思いますね。


投稿者: ハイドラ | 2007年10月22日 08:01

タコちゃん:ぼくも人の名前を覚えるの苦手です。とっさに顔は浮かぶのだけれど、名前が出てこないこと、実に多いです。タコちゃんは病者意識は強いですよね。手術なくてもいいと、良かったです。

ハイドラさん:国家試験って暗記力の試験ですよ。暗記に強い人が合格します。病者同士の上下関係の延長に「支援者が上」という意識があるのだと思います。
 たとえば、アルコールのひとは、統合失調症より健常者に近い、とか。支援者の人は「病気になって絶望した」とか「もう自分は普通の人ではない」とか経験していませんからね。自信のない新人ワーカーほど、病者に学ぼうとするのかもしれません。
 ワーカーでもいい人は差別なく自宅に病者を呼んで、酒飲んだりする時期がありますが、時期を過ぎると、自分のプライバシーを守るようになる気がします。


投稿者: 佐野 | 2007年10月22日 16:00

 こういうボクでも、どこか健常者願望があるかもしれないです。
 でも、病院行って、結局、自分もみんなと同じ病気なんだって思いしらされますね。
 たとえ働いていたとしても、原点は変わらないわで……
 ボクは、入院はしてないけどね。
 どこまで行っても、結局、原点は変わらないのです。


投稿者: タコちゃん | 2007年10月23日 04:05

 タコちゃん:原点だとおもえば、それに徹底してこだわったらいいと思います。


投稿者: 佐野 | 2007年10月27日 10:25

 近所の統合失調の方宅へ行き、ゴミ出しや子どもの登校支援をしています。
 妄想が強いと学校へ出しません(行った先で酷い事がある)。どうしたら登校習慣へ繋がるでしょう。子どもは自分で起きて勝手にパン食べて準備します(怠学はあるので行くなと言われるとずうっと休む)私は単なるご近所です。


投稿者: のん | 2008年03月24日 10:44

>患者と同じ弱者としての自覚を持ち続ける事

…そこを突き詰めると自分と向き合わざるを得ませんので、生活の安定とともに見ないようにするんでしょうか?
周りにそんな医者・ワーカーは少ないですね。

>統合失調の患者さんは嘘をつくようなお人好しが多い

…逆に健康な人は嘘をつくのがうまいですね。



投稿者: Anonymous | 2008年07月12日 00:15

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
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