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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

退院支援への覚悟

 松山市が「今後5年間に、257人の精神病者を退院させる」と、数値目標を発表した。これは、一つの中型精神科病院のベッドをすべて空にする数である。当然、病院経営側としては何としてでも阻止しなければならない数字かもしれない。
 病院から給料をもらっている病院ワーカーは、病院経営に損失を与える仕事に直面する。退院が順調に行われ続けると、病院の職員数がだぶついてきて、職員のリストラの可能性も出てくる。当然、労働組合としては退院に反対するだろう。当事者も、「別にこのままの入院生活でかまわんけど」と言うかもしれない。ワーカーは、病院の中で孤立無援になるかもしれないのである。

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 ハンセン病の患者は、施設に隔離され死ぬまで地域に帰ることなく、生を終えようとしている。精神病者を第2のハンセン病者にしてはいけない。これは人権問題だ。だから日本政府は、国際的に長期入院者について勧告を受けた。国もやっと重い腰をあげた。そして結果的に、松山が出した数字が257人の退院である。
 頼りは行政の追い風だ。今を逃せば、行政の勢いは終息し、官民あげた社会復帰運動は終わってしまうだろう。業を煮やした厚労省が、長期入院者の診療報酬を下げてくるかもしれない。こうなると病院も、敷地内病棟転換型の退院支援施設に移行することがにわかに現実的になる。入院患者のカウント数は一気に下がり、病院内で多数の患者が一生を終え、第2のハンセン病と呼ばれるようになるだろう。
 味方もなく自力で、あるいはこれから制度化されるかもしれない自立支援員とともに、退院運動をすすめていく病院ワーカーに、本気の覚悟はあるのだろうか?
 地域のワーカーに求められるのは、受け皿の確保である。これはすでに、ワーカーの中から作業所やグループホームの動きが出てきている。これは加速していく必要があるだろう。
 自分の経験から言おう。4年間入院していたときの退院時には、既に入院しながら大学に2年間通っており、外に人間関係がある程度できていたから、アパート生活もそんなに不安はなかった。次のステップとして、もう病院には戻りたくないと強く思う時期があった。ここで生活の基盤を地域で確立できなければ、退院は多分失敗するだろう。
 この時期を過ぎれば、また病院が恋しい時期がくる。ここで病院デイケアが両手を広げて歓迎すれば、その人は喜んで生活の主体を病院デイケアの人間関係に求めるだろう。そしてその人は、地域生活を送れなくなってしまう。もう病院は帰る所ではない、というある種諦めも、当人には求められるだろう。それを乗り越えれば、あとは地域を生活の基盤にすることができるだろう。
 ムゲンでは、メンバーになって毎日来ていた人も、バイトをしたり彼・彼女ができたり、よそに居場所を見つけたりして、多くの人が2〜3年くらいで徐々に来なくなる。ぼくたちはそれを「卒業」と呼んでいるが、ある病院デイケアでは、50〜60名のうち半分が10年以上留まっていると聞く。退院支援の対象ではないかもしれないが、ある意味長期入院者だろう。
 平成20年に愛媛県が1500〜1600万円の予算をつけるそうだから、退院を専門に行う自立支援員の制度に予算がつくかもしれない。この困難な退院支援こそ、県精神保健福祉士協会が今、全力で取り組むべき課題だと思う。


コメント


 機会がありましたら、いろんな場所に出かけられていろいろな人にあってみられてはいかがですか?
 細かい数値目標はどこからの情報なのでしょう?
 そういった場合、決してワーカーさんだけがに対処なさってるとは限らないとおもいます。
 ここ数年でグループホーム、作業所の新設?もなされてきてます。退院後の住居の提供、仕事としての場所の提供も徐々になされてきてますよね。今年中には新しい形態での施設の開設もなされるようです。
 お忙しいでしょう。専門家だけではなく、一般の方との交流の機会やイベントへの参加などを勝手ながらお勧めします。


投稿者: Hiromi.s | 2007年10月17日 02:09

 数値目標は松山市保健所が発表しています。
 退院支援については、先進県の大阪のデータですが、自立支援員という退院支援の専門員(ワーカーや当事者がなっています。時給850円)が23名いて、4年間に71名の退院に成功しています。松山市のは今後5年間の目標ですから、自立支援員が一体何名必要だろうか?これにふさわしい予算がまだ全く付けられていません。
 一般の人というのは、どういった人達かなあ? 自分のところの作業所を通じた人間関係とかならありますが。当事者は同窓会が苦手って知っていますか? ぼくも同窓会に行っても全く何を話していいか分からないので、行っていません。


投稿者: 佐野 | 2007年10月17日 22:33

 同窓会かあ。確かに苦手だな。
 一般の人というと、語弊があったかもしれません。
 私は数値とかは苦手なのでわかりませんが。
 毎日よく寝て、おいしい食べれれば十分かな。
 秋ですし、すこし散歩でもなさってみられたらいかかですか?


投稿者: Anonymous | 2007年10月18日 11:54

 気分転換は奥さんと一緒に温泉に行ったりすること、あと小説などを読むことでしょうか。
 寝ることは大事にしています。夜更かしせず、睡眠薬を早めに飲んで寝る様にしています。
 美味しいものは、自分で作ったりしますが、ぼくは洋食(主に肉を使うもの)担当、奥さんは和食、中華担当だったりします。
 休日には自室に引きこもっていることが多いです。


投稿者: 佐野 | 2007年10月19日 06:36

 確かに、僕も当事者関係の会合は出ても、それ以外の会合は出たことは、最近はありません。
 仰られる「一般」が、当事者以外の方のことをさしてるのなら、精神関係の会合に出続けると視野が狭くなると感じることはありますよ。半面、色々な病者と会うことが多いので勉強にはなります。
 ただ一般の場合だと、病気を明らかにせずに行くことが少なくないのです。込み入ったことは話せないので、そういう意味では辛いかな…


投稿者: ハイドラ | 2007年12月22日 23:41

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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