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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」 2007年10月

福祉施設の仕事は水商売?

 性的に嫌なことをされれば、セクハラとして告発することができる。これを逆手にとるようにして、商売として成り立っているのが、風俗や水商売だと思うことがある。もちろんこの商売の敷居は低くなったが、周りからは依然、差別されているように思う。
 ぼくは長い間、福祉の仕事は「土方仕事」だと思ってきた。汗水垂らして作業所のルーティーンをこなし、体を張ってトラブル処理にあたり、結果として、人を一歩でも前進させることができれば上出来だが、そんなことはめったにないことである。



患者嫌い

 最近の若い精神科医は患者嫌いが多くて困ると、ある老医師が言っていた。やたら陽性症状の短期消失だけを目的とする電気ショックばかりやりたがるという。そんなに幻覚妄想のある患者さんとの付き合いが嫌なら、外科でもやってください、とでも言うほかない。精神科の患者さんは慢性疾患なのだから。



退院支援への覚悟

 松山市が「今後5年間に、257人の精神病者を退院させる」と、数値目標を発表した。これは、一つの中型精神科病院のベッドをすべて空にする数である。当然、病院経営側としては何としてでも阻止しなければならない数字かもしれない。
 病院から給料をもらっている病院ワーカーは、病院経営に損失を与える仕事に直面する。退院が順調に行われ続けると、病院の職員数がだぶついてきて、職員のリストラの可能性も出てくる。当然、労働組合としては退院に反対するだろう。当事者も、「別にこのままの入院生活でかまわんけど」と言うかもしれない。ワーカーは、病院の中で孤立無援になるかもしれないのである。



就労について

 今日も仕事を終え、プライベートに戻っていく。仕事はしんどくて嫌だね。生活のためにみんな仕方なく続けているのですが、まあ社会の片隅で人知れず、コツコツと汗をながすのが、仕事なのだろう。
 もちろんこれは、病者であっても同じこと。就労して病気を悪化させることのほうが多いと思うのに、それでも病者は働きたがる。入院中の病者でも「働きたい」と言う。健常者ならば、働かずに生きていければどんなに楽だろうと考える「就労」に、病者は異常なほど執着する。



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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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