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南雲明彦の「発達障害と生きるということ ~当事者からのメッセージ~」

理想を描こう

 北海道で障害をもつ人の支援をしている人が、こんな面白い例え話をしてくれました。

 「ウルトラマンは3分しか、地上にいることができない。しかし、ウルトラマンにはウルトラマンにしかできない役割と働きがある」と。

 発達障害をもっている方々のほとんどは、一般の人たち同様に学業に励んだり、仕事をしたりするにはどうすればいいのか? と考えているのではないかと、最近、感じています。しかし、この言葉は、「人それぞれに、合った役割と働き方がある」という新しい発想を与えてくれました。

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 もちろん、障害をもつ人たちが、勉強しやすい、働きやすい環境を整えていくことは大切なことだと思います。しかし、私たちのような、「わかりづらい障害」をもつ人たちに関しては、それが決して簡単なことではないことも痛感しています。
 精神障害者保健福祉手帳を取得して、障害者雇用で就労するという道もあります。しかし、手帳を取得できない人たちも、多数います。いわゆる、グレーゾーンの人たちです。彼らは、一般就労という形で仕事をするにしても、周りの人たちの理解や手助けが必要です。また、就労する前に、ある程度は仕事をする上で必要なスキルを獲得しておかなければなりません。そのスキルを獲得するプロセスにおいても、周りに人達の理解や手助けは必要不可欠です。
 就労までのあらゆる通過点の全てが線としてつながらず、どこかで途切れてしまっていると、就労まで辿り着けず、「自立」という道から外れてしまう可能性があります。ここでいう「自立」とは、「自ら得たお金で生活すること」です。

 また、雇用する側に「障害をもっている人は、限られたことしかできない」という思い込みがあるのではないか? とも思います。障害者に限ったことではなくて、学歴や職歴などだけで安易にその人を判断し、可能性を限定してしまっていることはないでしょうか。
 もちろん、発達障害をもつ成人した人たちの側も、現実をしっかりと見つめなければいけない部分があります。自分にできることであれば、理想と違っても、まずはお金を生活の為に稼がなければいけないこともあるでしょう。しかし、少なくとも、子どもたちには理想を追いかける時間やトライ&エラーの時間を与えてもいいのではないだろうか? と思うのです。

 笑われるかもしれませんが、私が「僕は、字が読めない。」という本を出すきっかけは、同じ出版社で発刊している若者向けの雑誌にディスレクシアのことを取り上げてほしいという想いから、その関連雑誌の元カメラマンの方にコンタクトを取ったことでした。そこでカメラマンの方から「雑誌よりも、ずっと残る本の方がいいよ」と助言をもらったことで、作家さんに口述筆記してもらうという形で本の制作が始まったのでした。雑誌の掲載については叶いませんでしたが、トライしてみたことで、別の形ですが思いが実を結ぶこととなりました。
 実は、その当時、雑誌にディスレクシアのことを掲載したいという想いを、周囲の発達障害関連の人たちにも伝えていました。しかし、障害のことをこの雑誌に載せることは「不可能」「不適切」だと言う人が大多数でした。そこでコンタクトをとることをやめていたら、本の出版もなかったかもしれません。

 自分の特性は把握しておかなければなりませんが、だからといって、自分の可能性、未来への可能性を限定することはあまり良いとは思えません。夢をもつこと、目標をもつことが、その人の活力になることだってあります。それを大人が、「無理」という烙印を自分たちの経験だけに基づいて、判断していないでしょうか?

 障害をもっていても、夢や理想があります。叶えられるかわかりませんが、その気持ちを傾聴し、応援してあげることは、その人の未来への可能性を広げることにつながると思います。そうする中で、発達障害をもつ人たちが「ウルトラマン」になれるのだと思います。そして、同じ特性をもつ大人たちがウルトラマンのような存在になることで、子どもたちは、その存在に影響を受け、思いきり、自分の人生にチャレンジできるはずです。


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プロフィール
南雲 明彦
(なぐも あきひこ)
アットマーク明蓬館高校
共育コーディネーター
1984年生まれ。21歳の時に自身が発達障害の一つである「ディスレクシア(読み書き困難)」であることを知る。その後、「ディスレクシア」の存在が世の中に知られていないことから、啓発、支援活動に尽力中。
著書に『僕は、字が読めない。~読字障害(ディスレクシア)と戦いつづけた南雲明彦の24年~』(小菅宏著/集英社)、『私たち、発達障害と生きてます~出会い、そして再生へ~』(共著/ぶどう社)がある。
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