当事者が持つ力
いつの時代も、“当事者”は、最初に火を付ける役割を担います。
1995年、東京HIV訴訟原告で当時19歳の川田龍平氏(現参議院議員)が、実名を公表したことで、この問題が数多くのメディアで取り上げられ、世間にも大きく注目されました。その結果、1996年2月には当時の厚生大臣であった菅直人氏(現内閣総理大臣)が謝罪し、和解が成立したのは、今でも記憶に鮮明に残っていると思います。
薬害肝炎九州訴訟の原告であった福田衣里子氏(現衆議院議員)も、2004年4月に実名を公表し、講演活動の他、各種メディアに登場するなどして精力的に活動を続けた結果、2008年1月「薬害肝炎救済法」の成立により、一応の決着がつきました。2009年10月に召集された臨時国会において、肝炎対策基本法(C型に限らず、全ての肝炎患者が救済の対象)が成立しました。
実名手記『性犯罪被害にあうということ』(朝日新聞出版)の著者である小林美佳氏も、性犯罪被害当事者として各種メディアに登場し、他の当事者たちが声をあげるきっかけを作った方です。何度も性犯罪にあった現場に足を運び、当時の生々しい様子を語る姿に希望と勇気をもつ人たちがたくさんいらっしゃいました。私も直接お会いしてお話しましたが、「もう、同じような被害者を出したくない」という姿に感銘を受けました。
この三人のキーワードとなるのは、「実名で公表」という部分だと思います。そして、各種メディアに登場し、世間の興味関心を引き、実情を公表し、取り上げられたことが、時代を切り開く一因になったのだと思います。もちろん、この方たちの活動のみで、何かを成し遂げられたわけではありませんが、確実に世論へ訴えかける力をもっていました。
もちろん、個人情報を世間にさらけ出すというのは、とても勇気のいることだと思います。ただし、この事実からもおわかりになるように、当事者が発信をして、世間に知れ渡ることがあるのです。
発達障害においても、実名で公表されている方は、ごく少数であることは、紛れもない事実です、ただし、実名で公表されていない方たちを責める気は毛頭ありません。
しかし、子どもたちの未来を考えた場合に、実名で公表できない障害は、「良くないもの」という印象を与えてしまう可能性があります。なぜなら、大人たちがそれを隠していると、子どもたちも隠してしまいがちだからです。
平成23年度入試から、大学入試センター試験は、発達障害のある学生に、時間延長などの特別措置を行うことを決めました。同試験の障害区分に発達障害が明記されたのは初めてです。発達障害のある受験生が受けられる特別措置は、試験時間の延長(1.3倍)・解答欄への記述ではなく、選択肢にチェックを入れる「チェック解答」・拡大文字問題冊子の配布・別室の設定などがあります。
ただし、これには申請が必要で、所定の受験特別措置申請書、高校などが作成する状況報告書、医師の診断書を提出する必要があります。本人たちが楽になるのであれば、申請できた方が絶対良いのです。それは、自分が劣っていることの証明ではありません、未来を切り開くための、一つのジャンプ台に過ぎないのです。
こうした制度を利用すること自体が、ひとつの「公表」です。その一歩を踏み出す勇気を大人たちが後押ししてあげるのは、必要なことだと思います。
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