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南雲明彦の「発達障害と生きるということ ~当事者からのメッセージ~」

障害をカミングアウトすることは、ハイリスク、ローリターン

 皆さん、吉原シュートさんという俳優の方をご存知でしょうか? テレビや雑誌でも注目され始めている方で、最近では『ネオロマンス・ステージ「金色のコルダ」ステラ・ミュージカル』に出演されています。実は、この方、どこからどう見ても「美男子」なのですが、戸籍上は「女性」です。最近、彼は自身が「性同一性障害」であることを公の場で告白しました。戸籍上は「男性」の同じ障害の芸能人の方は、たびたび見かける事はありますが、逆のパターンを見かける事は今までありませんでした。とても勇気のいる行為であるのは間違いありません。なぜなら、「非常にわかりづらい障害」だからです。これは、発達障害にも同じことが言えます。

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 私は、自分の障害を告白して活動していますが、同じ障害をもつ人たちのお話を聞くと、障害を隠しながら、日々を営んでいる方がほとんどです。その理由は、その障害に対して、認知度、理解度があまりに低いこと。告白しなければ、適切な支援は受けるのは難しいのですが、それ以上に、告白したことによっての“差別や偏見や誤解”が生まれることのリスクが大きいということなのです。運が良ければ、適切な支援を受けられますが、大抵は、事実と異なった扱いを受けてしまい、本人にとっては、ローリターンになってしまう可能性が高いです。それだったら、現状でそれほど不当な扱いを受けていなければ、わざわざ言わない方が良いという選択は、妥当だと私は思います。

 吉原さんが上記のミュージカルの仕事仲間に「性同一性障害」を打ち明けた時のことを、このミュージカルの脚本、演出をされているカニリカさんがご自身のブログで語っています。吉原さんは相当緊張されていたようですが、「そんな心配は杞憂で、キャストメンバーのみんなは、優しく、温かく、その事実を受け入れた」のだそうです。そして、「みんながすごいのは、その告白の前と後で、シュートに対する態度や付き合い方が全く変わらないことだ」とも語っています。
 言いたくなければ、別に無理をして告白する必要はないとは思います。しかし、言えたら楽だけれど、言えないという状況の場合には、その状況を打破できる世の中を創りあげていかなければなりません。そして、それと同時に吉原さんのように周りの態度や付き合い方が変わらなければ、ご本人が本当に居心地の良い居場所になるのだと思います。これはとても大切なことなんですよね。「障害名」は、あくまで、その方の特性を表すもので、土台となっているのは、かけがえのない個人であるということは忘れてはならないのだと思います。

 「ハイリスク・ローリターン」から、「ローリスク・ハイリターン」の時代を築くために、皆さんと出来ることを語り合っていこうと思う次第です。


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プロフィール
南雲 明彦
(なぐも あきひこ)
アットマーク明蓬館高校
共育コーディネーター
1984年生まれ。21歳の時に自身が発達障害の一つである「ディスレクシア(読み書き困難)」であることを知る。その後、「ディスレクシア」の存在が世の中に知られていないことから、啓発、支援活動に尽力中。
著書に『僕は、字が読めない。~読字障害(ディスレクシア)と戦いつづけた南雲明彦の24年~』(小菅宏著/集英社)、『私たち、発達障害と生きてます~出会い、そして再生へ~』(共著/ぶどう社)がある。
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