一票に、一人ひとりの思いを込めて
先日、事業所のデイの送迎をしている時のことでした。
最近、私の町で市長選挙・市会議員選挙が行われました。選挙の光景といえば、さまざまな表情が掲示される選挙ポスターや選挙演説、選挙カーというイメージがあります。そのとおりの光景が、朝の集会所に向かう送迎車に乗っている私たちの目に飛び込んで来ます。
するとその光景を見て、いろいろな反応が車中でみられます。ある人は「ずいぶんとにぎやかだねぇ」。また、別な人は「あら、怒鳴っているよ」など、十人十色のさまざまなリアクションが出てきます。
そのような中「一生懸命だね…ほら~ぁ…手…振ってるヨ」「頑張ってねぇ~」と、私たちの乗る送迎車から手を振るのは春子さん(仮名)でした。
この春子さんは認知症状も進行し、中程度から重度に移行してきていると専門医師から診断されていました。家族も半ば仕方ないと思いつつも、春子さんの在宅介護生活を続けているのです。
日常生活の会話もあまり成り立たない春子さんですが、以前は俗に言う「うぐいす嬢」として市会議員の選挙を応援したことがある人です。選挙一色の町並みを見た春子さんは、当時について語ることはなくなりましたが、身体はしっかり覚えているようです。選挙カーとすれ違うたびに「頑張ってるね」と言って手を振るのです。その様子を介護者の娘さんに伝えたところ、昔の春子さんを想い出したように語ってくれました。
春子さんが選挙活動の手伝っていたころは、早朝からおにぎりを握り、事務所に差し入れをしたり、足を棒のようにして地域のお宅一軒一軒、候補者とあいさつまわりをしたそうです。時には自宅に帰ってくるのが深夜になることもあったとか。
ここまでの話だけだと、「選挙活動が好きな人なのかぁ」と思ってしまいますが、介護者の娘さんの話はさらに続きました。
「母は、一生懸命で実直に取り組んでいく人をみると、応援したくなるみたいです。町内対抗の球技大会でも、母の熱心な準備や応援ぶりから『団長のはるちゃん』といわれるほどで、子ども心に、恥ずかしさと頼もしさが入り交じり、複雑な気持ちでした」
話し終えた後、娘さんは「そうですか、母は今でも忘れてないんですね」と穏やかな眼差しで返答をしてくれました。その眼差しの中には、母として、そして町内に慕われた「応援団長はるちゃん」の光景を、想い出していたのかもしれません。
そのような春子さんの話から、改めて選挙について思うのです。選挙は私たち市民からの代表者を選ぶ大切な機会です。選挙で当選された立候補者たちには、きっちりと市政を支え、その役割を果たしてもらいたいと思います。市民一人ひとりの清き一票に込められた思いを活かしてもらいたいです。たかが一票、されど貴重な一票です。そう改めて思う機会を教えてもらった春子さんに、感謝です。
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