忘れたくないこと
私たちは、生まれてから現在に至るまでの経過の中でさまざまな経験をしています。その一つひとつの経験の積み重ねがあるからこそ、個性が育まれて、俗に言う「らしさ」がみられてくるのではないでしょうか。
そして、そこにはいろいろな「大切な思い」があり、色あせることなく「その人らしさ」の柱になっているのではないでしょうか。
当集会所「風のさんぽ道」の穏やかな昼のひととき、こんな話題が飛び出してきました。
太郎さん 「最近忘れっぽくてこまるんだよなぁ~」
花子さん 「あら、忘れたって大丈夫よ、また後で思い出すから」
スタッフ 「そうなんだぁ~花子さんは忘れても後で思い出しているだね」
「そうよ。もし思い出さなかったら、それまでよっ」と、花子さんらしい江戸っ子節の返答!
次郎さん 「俺なんか、わかんねぇーことばかりで、どうしょもねぇ~や」
そんな話があちらこちらから出てきます。
そこで、スタッフから皆さんに質問です。
「それじゃ、皆さんにとって決して忘れたくないことは何ですか?」
「俺はお金だね」と、太郎さんが真っ先にズバッと発言。
「お金」という言葉から、太郎さんのどんな「らしさ」が見えてきますか? お金は確かに必要だけど、真っ先に「お金!!」とは、よっぽどお金の猛者なのかなんて思いますか。ここで、必察です。
真面目に働いてきた太郎さんは、コツコツ貯めてきたお金を、知り合いの人に頼まれ貸してあげたそうです。知り合いの人は、そのまま行方がわからなくなってしまいました。信じていた人から裏切られることになってしまった太郎さんですが、周囲の人には「騙すより、騙される人間のほうがいい。また働けばいい」とけろっと言っていたそうです。
でも、奥さんの前では「家族に迷惑をかけてしまった。子どもたちにも、必要なときにちゃんとしてやれなくてかわいそうなことをしてしまった」と涙したという太郎さん。
その後太郎さんは、それまで以上に必死で働いたそうです。「働くばっかりで、自分が楽しいことを何もしてこなかった。これから楽してもらおうと思っていたら、物忘れがひどくなってしまって…」「今の楽しみは、孫におこづかいをあげることくらい。せめて孫が遊びに来るときには、年金をおろしてきて夫に渡すのです。普段渡しても、しまいわすれちゃったりして大変だから…」と奥さん。
太郎さんは、「お金」を忘れたくないのではなく、「お金のことで自分が家族につらい思いをさせてしまったこと」そしてその時強く感じた「家族を悲しませたくない。家族のために自分ががんばらないと!!」という思いだったのでは…。そして、その思いを柱に太郎さんは生活てこられたのではないかと察しられます。
「忘れたくないことは?」の問いに「俺は金だね」と答えてくれた太郎さんに、スタッフは「おじいちゃんからのおこづかいを、お孫さんが楽しみにしてますものね。お財布をしまいわすれないようにしないとね」と声をかけます。
すると、満足そうに笑いながら、また「最近忘れぽくって困るんだよな~」と穏やかに笑みをうかべながら話す太郎さんに、「あら、忘れたって大丈夫よ、また後で思い出すから」とまたまた続ける花子さん。
生活(いき)た思いを柱に、今を生活(いき)るみなさんのパワーが感じられたひとときでした。
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