『必察!認知症ケア』刊行記念インタビュー
実践者たちの「生活ること支援」に向けて
このたび、永島徹さんの著書『必察!認知症ケア』が刊行されました(中央法規刊)。今回のブログは趣向を変えて、著者として本書に込めた思いなどを、永島さんにうかがいます。
○認知症ケアは、「察する」ことから始まる
――NPO法人「風の詩」副理事長として、デイサービスや居宅介護支援事業所、社会福祉士事務所を軸に地域福祉に携わる永島さん。そもそも、本書を上梓することになったきっかけは何ですか?
永島 以前から私は、日常業務の中における利用者とのかかわりを記録していました。それは写真だったり、利用者の言葉だったりとさまざまですが、これらをいろいろな人たちに見て、読んでもらいたいなと思っていました。今回、出版社の方からそうした積み重ねをまとめる機会を与えていただき、書籍というかたちで刊行することができました。
――今まで温めてきた利用者からのメッセージをまとめたということですが、永島さんが本書に込めた思いを聞かせてください。
永島 それは本書を読んでいただくのが一番ですが(笑)、タイトルからもわかるとおり、認知症ケアという切り口をとってはいますが、それはあくまでも入口で、出口は私たちも含め、地域で暮らす生活者が豊かなかかわりを育んでいくことだと思います。「関係性」などといわれますが、人と人とはお互い察しあいながら生きています。認知症の人とのかかわりにおいても、察することがなければ物理的なケアになりがちです。察することで専門職としての気づきになり、自分自身のスキルを高めていくことにつながるのではないでしょうか。
――現在の認知症ケアは、察することが不十分だと思われますか?
永島 そうですね、不十分というより「察する」ことの重要性に気づいている方が少ないのではと思います。施設職員向けの研修に呼ばれると、しばしばこんな声を聞きます。「1日(8時間労働)のうち、利用者と話をしているのは1時間にも満たない」「入居者と話をすることが必要だとわかっていても、食事や入浴、排泄の介助に追われてしまっている」。そんなふうに話す職員の皆さんの多くは、フルに身体を動かし、肉体的な疲労を感じながら、その一方で、果たしてこれが自分の目指す介護の専門職としての仕事なのか……。このままでいいと思わないが、どうすることもできない、というような精神的な疲労も感じています。そして、介護職のやりがいを感じられないまま、燃え尽き、現場を離れていく方も少なくないのではないでしょうか。
だからこそ、私は伝えたいのです。食事や入浴、排泄の介助など多くの時間をかけている行為のベースには「察する」ことが必要です。察することで、今まで気づけなかったことが見えてくるでしょう。そこに、利用者の生き甲斐や私たち専門職のやり甲斐が見出せていけると思うのです。
○察することで生まれた、かかわりのエピソード
――本書の内容についてうかがいます。永島さんが言われる「察すること=必察」を7つに分類し、それぞれの定義と具体的な方法論について提案し、さらに具体的な事例について言及されています。永島さんが特に強調したい、または印象に残っている箇所(エピソード)はどの部分ですか?
真察(しんさつ)…事実のみにとらわれることなく、察することで真実をみること
感察(かんさつ)…注意深く見るとともに、五感を活かして、相手の思いを感じて、察すること
粋察(すいさつ)…自分の主観や価値観を相手におしつけることなく、ありのまま(粋…まじりけなく)に相手を理解していくこと
関察(かんさつ)…対象者の状態だけの観察ではなく、その人とかかわる人との関係性を察していくこと
交察(こうさつ)…人とその人をとりまく社会との関係性を察していくこと
動察(どうさつ)…自ら動き、自ら足を運んで深く物事を見ること
連察(れんさつ)…部分ではなく連続性をもって察すること
永島 順位はつけられませんが、事業所を立ち上げたばかりのころにかかわったマツさんのエピソードが思い出深いです。認知症の周辺症状を繰り返すマツさんは、「どうして私のことをわかってくれないの?」というメッセージを、さまざまなかたちで私たちに伝えていました。その思いを察することで、マツさんの生活(いき)ることを支援していきましたね。
――入浴を拒否するさゆりさんとのかかわりも印象的でした。特にデイサービスは、そのために利用者する方がいるほど、入浴へのニーズが現在でも高いと思いますが、ともすれば流れ作業で「こなしていく」入浴介助となりがちです。「拒否」があった場合、その理由を深く探る(察する)ことが後回しになってしまいます。
永島 「なぜ拒否するのか」という理由を考えていても、多くの場合、目の前の人をきれいにしなければという義務感が先に立ってしまいがちです。さゆりさんの場合、本人の生活歴を探ることで「その思い」を察することになりましたが、私たち専門職も多くのことを学びました。
○失われつつある「察する」文化
――本書は主に、認知症ケアに携わる専門職に向けて編まれました。著者として、どのように活用してほしいですか。
永島 私たち専門職というのは、相手がいなければ成立しません。ですから、相手のことを察していこうというのは、直接援助職であれ間接援助職であれ、実践者には欠かせないんです。前述のように物理的なケアだけに終始している介護職もいれば、情報だけを提供し、画一的な対応になっているソーシャルワーカーもいます。ですから、察することを意識し、相手の思いに気づいてほしい。そのための手助けとして読んでもらえればと思います。
――話をうかがっていると、察するということは、認知症ケアに限らずすべてのケアに必要とされるスキルだと思います。今回、認知症ケアに特化して提案されている理由は何ですか。
永島 理由は主に2つあります。まずは、認知症をもつ方が増えているという社会的問題に際して、認知症へのかかわりが必要とされているためです。もう一つは、認知症の進行とともに、これまでどおりにいかないことも増えてきますが、その人がもっている「思い」があります。認知症をもつ方とのかかわりでは、その目に見えないところを察し、接していくことが特に必要とされるためです。日本人は農耕民族ですので、本来「ワビ・サビ」というのを大切にしてきました。察することを養ってきたんですね。しかし、欧米化が進むことでそういった部分が置き去りにされつつあります。
――そうすると、認知症に限らず、多くの場面において活用できる力ですね。
永島 そうです。必察=ソーシャルワークだと思っているので、さまざまな方とのかかわりにおける心構えの視点となることを願います。
――ありがとうございました。
永島さん自身はソーシャルワーカーとしての活動を基盤としていますが、これまで述べてきたように、本書で触れている必察力はあらゆる実践者に必要とされています。福祉・介護をめぐる環境は、報酬や待遇、人材などさまざまな面で厳しさを増しています。自分の立ち位置とスキルを備えていれば、自然と進むべき道は見えてくるはずです。本書が皆さんにとって、その羅針盤となることを願います。
【担当編集者より一言】
それまで「問題老人」と呼ばれていた人が、必察して関わることで、役割をもって自分らしく生きる「生活者」に変化していきます。相手の思いを察することがケアの第一歩だと痛感します。本書はお年寄りとのエピソードが満載です。ぜひ、お読みいただければ幸いです。
コメント
はじめまして☆認知症のケアのかかわりが難しいですね。
以前、私が在宅ヘルパーで担当していた認知症のほぼ寝たきりの100歳近い方は、訪問すると、じーと顔をながめ、私だと安心してケアをさせてくれたのですが、臨時で知らないヘルパーが入ると拒否をしてケアができず、困りました。
これからはますます認知症の方が増えるばかりで、先生の『必察!認知症ケア』の本を読み、対応策のために、昨年からケアマネになり、困難事例ばかり大変な日々ですが、ケアマネの仲間と皆で読み、現場で活用させていただきます。
暑中お見舞い申し上げます
『必察!認知症ケア』仲間たちと読ませていただいてます。
とても丁寧にかかわりが書かれていて、気づかない人、気づけない人にも「必察」が伝わっていったら、いいなぁ!と思っています。
今、認知症のケアは、名人芸やカリスマだからできるのではなく、現場の実践にかかわるケア・ワーカーのみんなが、認知症の方を受けとめることができることが必須です。
夜勤はひとり勝負だったリするんですものね。
数年前の石川県のG・Hの事件が悲しく思い出されます。入居者さんは本当にお気の毒なことですが、認知症のケアを知らず、認知症を理解できないままに、毎回夜勤に当たっていたケア・ワーカーもつらかったことでしょう。
これからも、認知症のケアに携わるみんなに元気をくださいね。
夏本番、皆様、お身体をご自愛ください。
ご利用者さんの脱水には、くれぐれもご用心!
「ひーちゃん」コメントありがとうございます。
認知症と共に生活(いき)るみなさんにとって、場所や人が変わっても、安心できるサポートが必要ですが、なかなかそれが難しい。でも、そんなサポートができるようになることで、ケア職の専門性も、より高まっていくのではと思います。
安心のサポートは、自分1人だけでの力ではなく、様々な人の力が必要です。お互いに相手の思いを察し会って、もし認知症になっても安心して生活(いき)るために支援に取り組んでいきましょう。できることからコツコツと…ですね。
「あねさん」いつもコメントありがとうごさいます。
時間の経過と共に、認知症への理解が5年前よりは見られ始めてきたとは言え、なかなかまだ「職人芸」的な見方、捉え方が多い昨今です。
そのような中、この書籍が人と人との関係性ということを、「察する」ということから改めて見つめ直して頂ける機会になれば幸いです。そして、あねさんから教えて頂いた言葉。
皆々様!顔晴れ(ガンバレ)
はじめまして。
必察、認知症ケアを読ませて頂きました。自分自身の想い、エゴが勝ってしまい、失敗を何度も何度もしてしまいます。実際、察する為には、相手をしらなければならないですよね。認知症の状態にある方だけではなく、スタッフ間も…。
チームワークって難しいですよね…。
「ブー子さん」
コメントありがとうございます。
察することは、おっしゃるように認知症ケアだけではありません。人と人との関係性の中で必要なことです。職員同士、地域の方々、そして家族の間でもいえることです。
私たちは様々なその関係があるから、今の生活があると思います。私もそうですが、できることから、できる範囲で必察していくことが、自身もそして周りの変化が見えてくると考えています。これからも、どうぞよろしくお願いします。
必察 認知症ケア 拝読しました。
読み始めは…なかなか 進まなかったのですが
中盤より 一気読み!!!
私のように現場あがりの者には、とても分かりやすく
うんうんと うなづく事ばかり。
日ごろの悶々とした、自分の考えや疑問に
ちょっと自信が持てた?気分(笑)
今度、お会いした時には生の声・意見を楽しみにしています。
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