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永島徹の「風」の贈り物

ふとした気づきを大切に

 季節は梅雨。「黴雨」とも書くということを、デイホームに集うお仲間から教えていただき、何ともじめっとした感じをよく表わした言葉だと、みんなで感心しました。
 そんな話をした後、梅雨の晴れ間をぬって、私はバイクで訪問に行きました。

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 「息子と二人で男同士の旅に行きたい」そう思って3年前に中古で買ったバイクです。当時小学校3年生だった息子を乗せ、「国道293号はどこまで続いているのだろう」と走って、海まで行ったこともありました。
 介護用の補助ベルトを私の腰に巻き、息子はそのベルトにしがみつきながらの二人旅でした。しがみつく息子の小さな手から、自分を信頼してくれている思いがひしひしと伝わってきて、うれしかったのを覚えています。その息子ももう6年生。身体も大きくなって、もうバイクの後ろには乗せられないかな。そんなことをふと考えながら、訪問先に向けてバイクを走らせていました。

 ドラッグストアの駐車場の横の道を走っていると、買い物袋を持って歩く老夫婦の姿が目に入りました。ご主人が地面を指さし、奥さんに何か教えているようでした。その指の先には、アスファルトの割れ目から咲く小さな花。二人は腰をかがめ、花を見ながら笑顔で何か言葉を交わしているようでした。
 「ほら、見てごらん。こんなところから花が咲いてるよ」
 「あら、ほんと。すごいですね」
 なんて会話でしょうか…。いずれにしても、一瞬の出来事でしたが、何とも微笑ましく、心和む姿でした。

 慌ただしく過ぎていく毎日。「忙しそうだから、後で話そう」そんなふうに家族が自分のことを察してくれていることも伝わってきます。気づくと、心は荒れて、潤いをなくしてしまっていたようです。日常の中に、心が和むようなことはたくさんあります。自分以外の誰かと、ともに感動できることも…。ただ、そのことに気づけないだけ。
 私も少しは周りの景色やいろいろなものに目を向け、「すごいな~」「きれいだな~」なんて心をふるえわせる何かを見つけてみよう。そしてその感動を、身近な大切な人に伝えてみようかな…。そんなふうに思いました。
 でも、これまで花の話なんてしたことなかった私が、「ほら、庭のあじさいがきれいだよ」なんて言ったら、妻や子どもたちに「どうかしちゃったの?」と鼻で笑われそうな気もします。


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プロフィール
永島徹
(ながしま とおる)
NPO法人「風の詩」副理事長。社会福祉士、ケアマネジャー。大学卒業後、青森県にて精神科ソーシャルワーカーとして精神障害回復者の社会復帰活動に従事した後、郷里である栃木県へ戻り、特別養護老人ホーム併設の在宅介護支援センターに勤務し、地域の中で生じているさまざまな介護上の諸問題についての相談等に応じる傍ら、ケアマネジャーとして介護サービス利用者がより良い生活を過ごしていけるようにと活動。その後、縦割りではなく複合的な地域福祉の拠点を創ろうという計画で、NPO法人「風の詩」を設立、現在に至る。

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