人生のおつり
以前、人の生き方には「請求書の人生」と「領収書の人生」があるということを書かれたものを目にしました。前者は、際限なく求めて欲しがる生き方。後者は、今与えられいることに感謝できる生き方だそうです。
『風の詩』という法人を立ち上げて6年。もちろん後悔はありませんが、前向きにやればやるほど新たな課題がでてきます。時にはそれが、目の前に立ちはだかる壁のように感じられ、その高い壁の前で、肩を落としトーンダウンしているような自分を感じることもあります。それでも今、支えてくれる仲間がいて、こうして活動を続けられています。トーンダウンすることはあっても、考え方を少し変えると、また前に進む力がでてくるようです。
私は、「領収書の人生」を一歩一歩進んでいこう!! そんなふうに思っていたところ、康夫さんとの出会いがありました。
康夫さんは一人暮らし。奥さんをなくされたのは30年以上も前のことでした。康夫さんは男手一つで2人の息子さんを育ててこられました。
「とにかく無我夢中だったよ。母親の分までは何もしてやれなかった」
息子さんたちは他県に就職し、それぞれ家庭を築かれています。時々様子を見に来る息子さんたちですが「何もしてやれなかった息子たちの世話になるわけにはいかない」と、頑なに1人でがんばってきた康夫さん。
その康夫さんに変化が出てきたのは2年ほど前でした。自動車の運転には自信があったはずなのに、あちこちぶつけるようになったり、洗濯や食事も以前のようにスムーズに行えなくなっていきました。
家族は変化に気づきながらも、そんな話をしようものなら「俺は何もおかしくない」「お前たちの世話にはならない」と怒り出す康夫さんに、どうしたらよいものかと考え込んでいました。
最近になって、康夫さんの様子はますます大変になってきました。ご家族から相談を受けたケアマネジャーは、康夫さんの様子をみながら、サポートが入ることのできるタイミングをうががっていました。康夫さんの口から「毎日のことが自分でうまいことできなくなってしまった。それでも息子たちの世話にはなれない」と語られたところで、ヘルパーやデイサービスなどの話をすると、しぶしぶながら受け入れてくれたのです。
こうして、私たちの集会所(デイホーム)に通所することになった康夫さん。「自分のことが自分でできなくなったら、生きてたって仕方がないよな」そんな言葉も口にされていました。
長い間「誰にも迷惑をかけたくない」その思いを柱に生活(いき)てこられたのでしょう。その思いを私たちも大切にさせてもらわないといけない。そう考えて一緒に過ごさせていただくことにしました。
すると、そんな私たちの思いを康夫さんも察してくださり、康夫さんの言葉が変わってきたのです。「こんなに笑ったのはなんだか久しぶりだよ。人生のおつりがもらえるんだな。ありがたい」と。
康夫さんは、どんな大変なことも、自身の課題として「領収書の人生」という生き方をされてきたのではないでしょうか。その康夫さんが、さらに人生のおつりを手にしたと感じていただけた。康夫さんの言葉に、私もお金に換算できない褒美をいただいたようでした。
コメント
おはようございます。
領収書の人生、はじめて聞くことばでした。
いま、ここにいるわたしが、支えられていることに感謝して、じぶんを受け入れて生きていくこと。とても大切なことですね。
康夫さんにゆったりとかかわられたケアマネジャーさんの動きもすてきです。サービスをつなぐ前に、その人にまず寄り添うこと、それが、康夫さんの笑顔につながったんですね。
あなたの笑顔はわたしの元気!
宅老所よりあいの合言葉ですが、この笑顔に出会えるから、わたしたちもあきらめないで、がんばれるんですね。
頑張れ=頑なに緊張する
顔晴れ=顔が晴れるということは…、
友人がわたしにくれた「がんばれ」は、顔晴れ!
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